2007.7.11 抜群な会話センス 【チルドレン】
■ヒトコト感想
短編型の連作物。この作者の作品は特別文章がうまいとか、トリックがすばらしいと感じるわけではない。そこに描かれている、抜群なセンスの会話と個性的なキャラクターがとても魅力的だ。とっぴなキャラクターが嘘かホントかわからない屁理屈を繰り返す。その屁理屈が異様に迫力があり、説得力に満ち溢れている。読んでいると、いつのまにか登場キャラクターたちと同じように、無理やり納得させられるからすばらしい。この会話センスとリズムがスラスラと生み出すことができる作者は、そうとうなセンスの持ち主だと思うほかない。
■ストーリー
こういう奇跡もあるんじゃないか? まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き。
ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。
■感想
陣内といキャラクターが中心となって、それぞれの物語が進んでいる。普通だったらありえないキャラクターなのだが、いつの間にか受け入れている。そして、陣内の会話一つ一つに引き付けられてしまう。ただの屁理屈以外のなにものでもないはずなのに、妙な説得力があり、勢いがある。ある場面などでは、自信満々に言い放つ言葉に感動すら覚えてしまう。この魅力的なキャラクターが本作のすべてだろう。
もちろん、陣内以外のキャラクターもすばらしい。盲目の永瀬であったり、その彼女の優子など、陣内に辟易しながらも暖かく包むまわりのキャラクターが、本作をホンワカとしたものに作り上げている。トリック的には物語り半ばである程度予想可能で、展開も読めてしまう。しかし、それでも興味深く読めるのは、陣内がどういった会話と行動をとるのか、それに注目してしまうからだろう。
短編の並びが時系列に沿っていないので、多少混乱することがあるかもしれない。いったいこの陣内は何歳ぐらいなのか。実際読んでいると、十代だろうが三十代だろうが、ほとんど変わりない強烈なキャラクターだ。平和でほのぼのとした日常の中で、陣内をきっかけとして、何かしらの出来事が起こる。すべての短編が陣内の近くにいる人目線で語られているため、陣内の本心を知ることはできない。いったい何を考えているのだろうか。作者の頭の中も含めて、その思考原理に興味がわいてきた。
この作者の作品は長編しか読んだことがなかったが、短編も十分に面白いということがわかった。
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