烙印の森 大沢在昌


 2015.3.16      武闘派ではないハードボイルドの主人公 【烙印の森】

                     
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■ヒトコト感想

裏稼業に手を染める者たちが集まるBAR「POT」。そこに集う者たちの際立った個性が、ハードボイルド的な印象を薄めている。主人公のメジローが、作者の作品としてはめずらしく武闘派ではない。暴力をふるわず、戦うこともしない。ただ、調査し写真を撮るだけ。正体不明の殺し屋フクロウを探す物語なのだが、メジローに攻撃力がないことを補うために、POTの元ムエタイ選手や、元海兵隊の女戦士まで登場する。

フクロウの正体不明感は良い。黒服の女という目撃情報を頼りに、ひたすら探し続けるメジロー。メジローに特殊な能力があるわけではないので、そこまで目立たない。ただ、メジローの過去の因縁からフクロウを探すことへの執念が、物語を盛り上げている。

■ストーリー

芝浦の人気のない運河沿いに佇むBAR『POT』。毎夜、ここに集う様々な人間たち。ハイテク機械の改造マニア。元傭兵、ニューハーフの元ムエタイ選手。そして私は、犯罪現場を専門に撮り続けるカメラマンだ。

私が犯罪、それも殺人現場にこだわるのは、ある目的で“フクロウ”と呼ばれる殺し屋に会う為だ。この殺し屋は、自分が手掛けた仕事の後、必ず現場に現れるらしい…。そして、『POT』のメンバーと私は、ある事件からこの静謐なる殺人者に狙われるようになったのだが―。

■感想
「POT」のメンバーは特殊だ。片腕の元傭兵。ニューハーフの元ムエタイ選手。車いすのハイテクマニア。そして殺人現場の写真家であるメジロー。作者の作品では、主人公はチンピラをあっさりと返り討ちにしてしまう程度の武力をもつのが普通だが、メジローはそうではない。

ごく普通の写真家だ。メジローの若干の頼りなさを、フクロウに身内を殺された元海兵隊員の女LTが補完することになる。LTの圧倒的な暴力が、本作をハードボイルド作品だと思いださせる効果がある。

正体不明のフクロウをなぜメジローは追いかけ続けるのか。その理由がもしかしたら本作のメインなのかもしれない。複雑な家庭環境と、生き別れとなった弟の存在。メジローの出自の謎からすると、もしかしたらメジローはとんでもない格闘術を身に着けているにも関わらず、正体を隠しているのか?と思ったが、そうではない。

LTの試験に対してボロボロの状態で合格したことを考えると、本当にメジローはただの人でしかないということだ。ハードボイルド作品の主人公としては意外すぎるキャラクターだ。

フクロウ対メジローたちの対決が最後におとずれる。そこでメジローとその周辺の関係が明らかとなる。強烈なインパクトはない。LTという特殊なキャラクターが物語を引っ張っていると言っても良い。見た目は不細工な女。だが、格闘能力はすさまじく、サイボーグのように相手の骨を躊躇することなくブチ折ってしまう。

元ムエタイ選手とメジローの三人でフクロウを追い詰めるのだが…。正体不明で完璧な殺し屋が、やけにあっさりと見つかるあたりは、ページの都合か?と思わずにはいられない。

作者のハードボイルド作品としては、珍しいタイプの主人公だ。



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