プライド 真山仁


 2016.1.5      それぞれの職業におけるプライド 【プライド】

                     
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■ヒトコト感想

短編集。それぞれの短編ではまったく違う職業が描かれている。それぞれの職業の深い部分まで描かれており、作者の守備範囲の広さに驚かされる。メディアでパフェーマンスに熱心な仕分け議員と対決する奇抜な農水官僚。仕分けについて作者なりの憤りのようなものを感じる作品だ。その他、医者の医局内の立ち回りを描いた作品もある。

政治家として信念を持ち暴言を吐く大臣をえがいていたりと、すべてがなんらかその職業に対するプライドのようなものを感じさせる流ればかりだ。まず、それぞれの短編の濃さに驚かされる。「ハゲタカ」の作者となると、経済小説的なイメージが強いのだが、バラエティに富んだ短編ばかりだ。

■ストーリー

異端の官僚が事業仕分け人と対決する「一俵の重み」。期限切れ食材を使った確信犯の真意に迫る表題作。英国ミステリを思わせる苦い人間ドラマと意外な結末の「暴言大臣」…。現実の社会事象に着想を得て、人物の深層心理までも描き込んだ「社会派心理小説」と呼ぶべき極上のフィクション全六編。働くために、そしてこんな時代を生き抜くために、絶対に譲れないものの姿を追い求めた著者渾身の作品集。

■感想
「一票の重み」は印象深い。民主党の事業仕分けに対しての作者の思いが描かれているような気がした。パフォーマンス的に目立つことをやりたい仕分け委員と、事業を守りたい官僚の対決。特殊な官僚が圧倒的な論理構成で攻め立て仕分け議員を論破する。

議員の気まぐれな発言や、なんでもかんでも削減しようとする考え方。偉そうな仕分け議員たちが、官僚に看破されるのは爽快だ。さらにはその官僚がかなり特殊ということが物語を面白くしている。

「医は…」は、海堂尊の作品のように医局内の権力闘争が描かれている。能力のある医者が教授の医療ミスの責任を押し付けられる形で医局を追い出される。日本を抜け出しアメリカで腕を磨いた医者は、日本に呼び戻されることになるのだが…。

医療事故の責任や、医者としての出世競争の在り方など、医療の物語としての面白さがある。技術に特化した医者とひたすら論文を書くことに心血を注ぐ医者など、様々な考え方がある。ただ、技術的に圧倒的に敵わない医者に対して、凡人はどのように対抗すべきか。医者のプライドの高さを思い知らされる作品だ。

「暴言大臣」は、世間で大臣が暴言を吐き辞任することについての、裏話を想像したような作品だ。やっと大臣になれたが、普段から暴言癖のある政治家が案の定会見の場で暴言を吐く。誰もが心配した状況ではあるが、なぜ大臣は暴言を吐き、その後辞任へと至ったのか。

なんとも想像力豊かな作品だ。政治家として考えることは様々あるとしても、一番に考える人は決まっている。政治の世界はドロドロとした印象が強いが、本短編では、やけにさわやかな印象ばかりが残っている。

それぞれが非常に内容の濃い短編集だ。



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