ペイジン 下 真山仁


 2015.10.14      何かを暗示するような結末 【ペイジン 下】

                     
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■ヒトコト感想

上巻から引き続き、メンツを何よりも大事にする中国の体質から、原発の強制的な稼働に対する懸念が描かれている。激しい権力争いと日本人には負けたくないというプライドが渦巻く中、実利を重んじるのは、田島と一部の中国幹部だけ。北京五輪が始まると同時に100%稼働する原発。

それは、微かな懸念を残したままでの稼働であった。となると、予想通り悪い予感は現実となる。本作で発生する原発事故が、まるで福島原発での事故を予言しているかのような部分がある。原因は違えど、原発のウィークポイントを取材し描いたであろう本作。現実でも、そのウィークポイントがそのまま大事故へと繋がっているのが衝撃的だ。

■ストーリー

衝撃的な事故シミュレーションを突きつけられた田嶋と鄧は、徹底的な補強工事を決意し、最大の障壁である政府の実力者を失脚させることに成功する。不和を乗り越え、“希望”を手に突き進む二人の夢――世界最大の原発から、北京五輪開会式に光は届くのか? 中国の暗部と現実を描き、共に生きる希望を謳い上げる一大傑作エンターテインメント。

■感想
原発内部での安全管理の在り方で対立する田島と中国人たち。整理整頓ができないところから些細なミスを見逃し、大事故へと繋がる。まさに誰もが教訓とすべきことだろう。ひとつの些細なミスが大事故につながるのは定番だ。

本作でも、何重にも安全管理された原発で、信じられないようなミスが起こり大事故へと繋がる。その先にあるのは、中国人の体質と、日本人の考え方の違いと、作業員たちを締め付けるだけでは円滑に物事が動かないことへの懸念が描かれている。

前作の冒頭では、世界に対して華々しく五輪がスタートしたことをアピールするため、原発も同時に稼働させようとする。その強引な手段が、のちに大きな事故へと繋がることになる。本作は作者が専門家に取材した上で描いているようだ。

取材した結果、原発に事故が起こるとしたら、一番起こりやすい場所についての懸念が描かれているのだろう。非常用電源周りの懸念がしつこいほど描かれており、物語中でもそれがそのまま事故の拡大へと繋がっていく。

恐ろしいのは、本作が福島の原発事故以前に描かれたということだ。根本原因は違えど、原発が制御不能となったのは電源の消失にある。非常用電源の重要性を描いており、それがうまく機能しないことで大惨事となる。

まさに現実の原発事故をそのまま描いているような作品だ。さらに恐ろしいのが、本作では、その後田島たちが原発の事故を無事収束させることができたのか、それともメルトダウンを起こしたのか、結末は描かれていないことだ。もしかしたら、福島のような結末しかないから描けなかったのだろうか。

予言に満ちており、結末が曖昧なのも、何かを暗示しているようだ。



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