折れた竜骨 米澤穂信


 2015.3.31      ファンタジーとミステリーを融合 【折れた竜骨】

                     
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■ヒトコト感想

中世ヨーロッパとミステリーの相性はどうなのか。いわば剣と魔法の世界にミステリーは成立するのか。例え密室殺人が起きたとしても、魔法で突破し…。なんてことになれば、ミステリーは成立しない。そんな難解な状況でありながら、見事にファンタジーとミステリーを融合させている。きたる戦いに備え傭兵を集めたソロン国の領主。その領主が何者かに殺される。

真の暗殺者は暗殺騎士と分かってはいるが、暗殺騎士に呪いをかけられ、領主を殺したのは誰なのか。ごく普通のミステリーではない。普通の現代ミステリーとは違った部分での制約がある。殺された状況と、領主の部屋が物理的に隔離されていたこと。また、領主と親密な者が犯人候補となり…。いつの間にか普通のミステリー的な展開になったことに驚いた。

■ストーリー

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた…。

自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、“走狗”候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年―そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?

■感想
どれだけ相性の悪いと思われた状況でも、筆力があれば立派にミステリーとして成立するのだろう。中世ヨーロッパでのミステリー。剣と魔法のファンタジーの世界で、領主が殺されたことに対する真相を調査する。領主の娘であるアミーナと傭兵である騎士ファルク、ファルクの弟子であるニコラの3人が調査する。

容疑者の候補を絞り込む過程は、普通のミステリーのように条件から外れるものをピックアップしていく。その中では魔術を使う者や、女でありながら凄腕の騎士や、荒くれ者たちをまとめる盗人などバラエティに富んでいる。

そもそもは、デーン人との戦いのために集められた傭兵たち。領主が殺され、その犯人捜しを続ける中で、デーン人が攻め込んでくる。デーン人の人間とは違う特性が、容疑者を絞り込む要因となる。ファルクとニコラが探す暗殺騎士に操られた人物は、デーン人ではない。

容疑者としての絞り込みの中では、読者はどの人物も容疑者ではないと考えてしまう。領主の元に向かうにもハードルが高く、領主が部屋に引き入れるほど信頼した人物となると、かなり限られてしまう。中世ヨーロッパ的な不可能ミステリーとなっている。

暗殺騎士とファルクたちとの対決は、意外な結末となる。それは、領主を殺した犯人にしてもそうだ。ミステリーの定番的流れかもしれないが、舞台が中世ヨーロッパとなると感じ方が異なる。犯人の候補としてまったく想像外の人物だ。

暗殺騎士に操られていたのは確かで、まさか、この人物が暗殺騎士に操られていたのか?という驚きがある。作者の現代的なミステリーはすばらしいイメージがあり、本作のような風変りなミステリーもすばらしいというのは、かなり守備範囲が広いのだろう。

冒頭の流れを読むと、ライトノベル的だが、ミステリーファンも納得のできだ。



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