満願 


 2014.12.14      バラエティに富んだハイレベル短編集 【満願】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

6つの奇妙な出来事のミステリー。奇抜なトリックを用いたミステリーではない。ストーリー展開で読者を引き付け、その後、結末で驚きの展開を用意する。短編としてのストーリー展開が見事だ。短い物語ながら、すぐにストーリーに引き込まれてしまう。さらにすばらしいのが、短編の設定が多種多様でありながら、そのどれもが魅力的でページをめくる手を止められないほどだ。

それぞれの短編で文体も変わり、ストーリーに合った雰囲気となる。交番勤務の警官の物語は、重厚な雰囲気となり、美しき中学生姉妹の物語は、軽い語り口ながら隠微な雰囲気を醸し出す。警官の物語が横山秀夫風であり、中学生姉妹の物語は桜庭一樹のようでもある。変幻自在感がすばらしい。

■ストーリー

人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる。

■感想
「夜警」は規則にがんじがらめにされた警官の、心理的圧迫を描いた作品だ。交番勤務の警官は、部下の殉職に不自然さを感じたのだが…。まるで横山秀夫作品のように、上質な警官ミステリーだ。警官には向き不向きがある。性格的に警官に不向きな男が警官を続けるとどうなるのか。その結果…。

部下が殉職する直前に起こした不自然な行動の数々。結論は単純だが、そこに至るまでの伏線がすばらしい。警官という職業は、ひとりの男の存在が仲間の死に繋がる危険な職業だけに、危険人物は排除しなければならないのだろう。

「柘榴」は「私の男」的な背徳な愛を感じずにはいられない。美しい中学生姉妹が離婚する父親と生活するために考え出した方法は…。美しい妻に可愛らしい二人の娘。父親は定職につかず、フラフラと女の元を渡り歩いている。

そんな父親に魅了された娘二人が、両親の離婚の際に、父親と生活するためにある策略を練る。娘二人がなぜそこまで父親に心酔するかについて、細かな描写はない。ただ、隠微な雰囲気は作品全体にあふれている。

「万灯」は商社勤務の男の日々の描写が魅力的だ。商社の仕事の過酷さ。現地の人々の理解を得るにはどうすれば良いのか。そして、強硬手段に出たあとに、ある日本人に対してだわかまりが起こる。物語は完全犯罪をもくろんだ男が、思わぬところでその罪が露見するという流れだ。

ただ、犯罪前の商社員生活の描写に思わず引き込まれてしまう。資源が乏しい日本の未来を担う商社の仕事。そこに誇りを持ちつつ、何がなんでも仕事を成功させるという強い胆力のある男。商社の厳しさが垣間見える作品だ。

バラエティに富んでおり、それぞれの短編のレベルはかなり高い。



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