海神の晩餐 若竹七海


 2015.10.26      船上コージーミステリーの醍醐味 【海神の晩餐】

                     
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■ヒトコト感想

豪華客船でのコ-ジーミステリー。作者得意のパターンであり、昭和の時代が描かれている。豪華客船・氷川丸に乗り、日本からアメリカへ向かう。時代的に今ほど海外へ行くのが簡単ではないので、上流階級の者たちが一等客室に乗り込み、旅がスタートする。

主人公は資産家の息子・本山。氷川丸内で出会う様々な人物たちと交流しながら、タイタニック号沈没の際に残された作家の作品をめぐる謎や、金髪の美女の幽霊騒ぎなどが描かれている。豪華客船内での生活や、セレブたちのちょっとした小競り合いなど、細かなエピソードが多数詰め込まれている。逃げ場のない船の上で起こる奇妙な現象は、ミステリーの題材としてはうってつけなのだろう。

■ストーリー

タイタニック号沈没の際、ある著名作家が、自身最後の未発表原稿を空き瓶に入れた…。20年後、資産家の息子・本山は旧友から謎の原稿を買わされた。米国に向かう氷川丸に乗り込んだ彼の船室に、何者かが盗みに入る―原稿には、何らかの暗号が隠されていたのだ。さらに続発する怪事件とは?たっぷりのユーモアとほろ苦い結末。

■感想
逃げ場のない船の上でのミステリー。それは外部からの侵入者が存在しないということで、ミステリーの舞台として適している。本作でも氷川丸の一等客室で、タイタニック号沈没時に残された幻の作品が何者かに盗まれる事件と、船のあちこちで目撃される金髪の美女の幽霊の事件がある。

どちらも、氷川丸に乗っている誰かが犯人となるはずが、誰も候補者がいない。部屋の鍵を持ち、絶妙なタイミングで盗むか姿を見せる。それでいて、突然跡形もなく消え去ってしまう。制限された状態でのミステリーは強烈に面白い。

資産家の息子である本山が、ちょっと頼りなさげに事件を調査する。その際には、お決まりどおり氷川丸に乗り合わせた同じく資産家の子女と知り合いとなり、船の上であれこれと推理を展開する。セレブの中には、かなり個性豊かな人物もいる。

それらが、船の上でトラブルを引き起こしながら、メインの事件解決へと物語は進んでいく。これが現代の物語だとあまり面白くないのだろう。昭和の時代と、古い資産家たちの独特の考え方というのが、物語に絶妙なスパイスとなっている。

正直、ミステリーのトリックに対しては特別な面白さはない。ある程度使い古されたトリックだ。ただ、物語としては、昭和を感じさせるキャラクターたちが、独自の感性で動き回り、さらには激しい船酔いの中での人物たちの交流がポイントとして描かれている。

船の上でのミステリー。閉鎖された空間と人間関係がおりなす人間模様。昭和の時代を感じさせるポイントがあるからこそ、楽しめるという部分が多い。本山が名探偵という感じではないのも良いのかもしれない。

船上コージーミステリーの醍醐味が詰まっている。



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