七つの会議 池井戸潤


 2016.9.27      不正発覚を恐れる関係者たち 【七つの会議】

                     

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■ヒトコト感想
連作短編集。ひとつの企業内で起こる様々な出来事が描かれている短編集。短編の中に登場したキャラクターが次の短編の主人公になる。「シャイロックの子供たち」と同じパターンだ。メインになるのは、企業内の不正事件についてだ。出世に心血を注ぐエリートたちがどのような思いで不正に手を染めていくのか。

出世とは無縁の女子社員やその他の社員たちとの関係や、それぞれの人生がドラマチックに描かれている。中堅メーカーでありながら、親会社を巻き込んだ大掛かりな不正を描く。不正が発覚したときに、人はどうするのか。作中では正義感に燃える八角という社員がいるが、そこまでさかのぼって?やりすぎでは?と思うような場面も多々ある。

■ストーリー
きっかけはパワハラだった!トップセールスマンのエリート課長を社内委員会に訴えたのは、歳上の部下だった。そして役員会が下した不可解な人事。いったい二人の間に何があったのか。今、会社で何が起きているのか。事態の収拾を命じられた原島は、親会社と取引先を巻き込んだ大掛かりな会社の秘密に迫る。ありふれた中堅メーカーを舞台に繰り広げられる迫真の物語。

■感想
最初の短編は、優秀な営業課長が突然パワハラで異動させられる物語だ。後釜に据えられた課長目線で、なぜ異動させられたのか?という疑問が語られている。特徴的なのは、異動の理由がパワハラではないことは明らかだということだ。にもかかわらず本短編内では、できるならば知りたくない理由というのが語られることはない。

このまま消化不良で次の短編へうつるのだが、理由は後半の短編で明らかとなる。この手法により、この会社で何かしらとんでもないことが起きているというのは容易に想像できる。

企業内の政治的な駆け引きだけでなく、下請け企業目線の短編もある。厳しい事業環境の中、なんとかやりくりしていたネジ会社が、突然親会社の都合で仕事がなくなる。かと思うと、急に大量の発注をつきつけられる。このあたりから、不正の影がちらつき始める。巨大なリコール隠しへと繋がる物語は衝撃に満ちている。

短編の中には、彼氏と別れたため会社を辞める決断をしたOLの話もある。社内で無人のドーナツ販売を始めようと奮闘する話だが、あいまにこの手の話が入ることで、非常にすっきりとした気分で次の短編にうつることができる。

不正隠しや闇改修など、企業がどのようなスタンスで問題に対応するかがリアルに描かれている。誰もが責任回避に動く世界。どこまで情報が伝わっており、誰が最終的な判断をしたのか。最終決断が社長であったとしても、子会社の立場としては、親会社の言いなりになるしかない。

このご時世、不正を隠したとしても必ず内部告発により発覚するということだ。最初はきついノルマを達成するために軽い気持ちで行った不正が、あとから取り返しのつかないことになる。

不正発覚後の関係者たちの状況は、他人事ではないように感じた。



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