2016.11.6 日常の謎を鮮やかに解くお父さん 【中野のお父さん】
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■ヒトコト感想
文芸編集者の娘が、本関連の謎に遭遇すると中野に住むお父さんにアドバイスを貰いにいく。中野ならば実家から都内へ勤務すればよいのだが、そこは自立するため一人暮らしをする娘。何かきっかけがあると理由を作り中野の実家に入り浸る。日常のちょっとした謎をお父さんが鮮やかに解き明かす。複雑怪奇な謎ではない。
まさに日常どこにでもありそうで、気にしなければ謎とは思わないような謎だ。お父さんと娘の掛け合いもまた、のんびりとしていて良い。国語教師ということで固い人物を想像したが、そういうわけでもない。出版界に秘められた日常の謎。ちょっと強引では?と思えるものも、お父さんが周りから外堀を埋めるように説得力ある説明を繰り広げる。
■ストーリー
体育会系な文芸編集者の娘&定年間際の高校国語教師の父が挑むのは、出版界に秘められた《日常の謎》!
■感想
作者得意の、日常の謎をとりあつかった短編集。「夢の風車」は、小説新人賞に50代後半の男性が応募した作品が大賞の候補となった。が、本人に連絡すると応募していません、という回答がきた。いったい誰がどのような目的で…。
50代の男が若い女性を主人公とした作品を描く。本作のポイントは、1年前に同じタイトルでクオリティの低い作品が応募されていたということだ。中野のお父さんの答えは適格であり、その答えを聞くと納得してしまう。そして、そのままデビューするというのもまた良い。
「幻の追伸」は、有名作家の手紙のコレクターが、あるひとつの手紙の不可思議な部分に悩む物語だ。そこで出版社勤務の娘は謎を解明するために中野のお父さんへ雑談交じりに尋ねる。お父さんが軽い気持ちでビールでも飲みながら、サラリと語る答えが良い。
手紙の内容と、そして、切り取られた部分をあくまで想定でしかないのだが、答えはかなりの説得力がある。手紙の追伸に大きな意味があり、なおかつ手紙の日付が重要だとは、意外なオチであることは間違いない。
「茶の痕跡」は、本に関連した殺人事件の短編だ。本シリーズの中では殺人事件ということで一段階深刻さはレベルアップしている。日常の謎とは言えないが、本に対してのこだわりというのは人によってかなり違うということがわかる。
本一冊で殺人事件が起こる。本をひときわ大事にする人にとっては、ちょっとしたお茶の染みがどこまでその人にとって重要なのか。中野のお父さんが、殺人事件の原因にまで言及するとは思わなかった。
日常のちょっとした謎を、あざやかに解決する中野のお父さんはすばらしい。
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