流れ星の冬 大沢在昌


 2016.4.28      老人ハードボイルド 【流れ星の冬】

                     
流れ星の冬新装版 [ 大沢在昌 ]
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■ヒトコト感想
40年前の伝説の強盗団「流星団」を引退し、大学教授として平穏な日常を過ごしていた葉山。そこに過去の因縁から、チンピラたちに襲われることになる。作者としては珍しく、今回の主人公は老人だ。ハードボイルド作品の主人公としては、力強さが明らかに足りない。が、周りが老人だと甘く見たところ、突如として昔の感覚を思いだし冷たい視線で相手を追いつめる。

この主人公のタイプは新しい。最初は相手に対して丁寧な話し方をするが、突如として変貌し相手を脅し始める。残りの人生を考えると、いつ死んでも良いという決意のようなものがある。それは、若者の無鉄砲な勢いとは違う、静かだが、かっこたる信念のある決意のように思えてくる。静かな迫力が伝わってくる作品だ。

■ストーリー

最愛の妻はすでに亡く、たったひとりの娘も独立し海外で暮らしていた。大学教授・葉山英介は平穏な人生の冬を送るはずだった。しかし、彼の過去がそれを許さなかった。40年前の伝説の強盗「流星団」、その最後にして最大の仕事……。愛するものと、男の誇りを守るため、葉山はふたたび銃を手にした――

■感想
平凡な日常を過ごしていたはずの葉山にトラブルが舞い込んでくる。60代後半で、静かな生活を続けたい葉山が主人公の本作。葉山は過去に強盗組織「流星団」に所属していた。引退してからもメンバーと交流を最近持ちはじめ、皆まっとうな仕事についている。

流星団のボスは半分ボケはじめており、孫をかわいがる老人や跡継ぎである子供の出来の悪さを嘆くなど、まさに普通の老人と化している。そんな状況でありながら、流星団が解散するきっかけとなった事件の繋がりでトラブルが舞い込んでくる。

葉山のキャラクターが秀逸だ。真面目で静かな老人として、チンピラに絡まれたとしても金で解決しようと相手に対して下手にでる。ごく普通の老人のように若者に対して敬語を使い、穏便にすませようとする。それが、裏に何か秘密があることがわかると、途端に昔に戻ったように銃を目の前につきだし、相手を脅しにかかる。

相手も葉山の変貌ぶりとその迫力にタジタジとなる。昔の仲間たちとの邂逅にしても、思い出を楽しく語る老人のように思えるが、実はとんでもない状況であったりもする。

物語のラストは葉山と同じく高い地位を持つ老人との対決となる。そして、すべての決着をつけるためには、昔の仲間との決闘が待っている。ハードボイルドの流れ的には定番かもしれないが、主人公が70前の老人であるため、普通のハードボイルドとは明らかに違った雰囲気がある。

随所に後先が短いことが命を惜しまない理由のひとつと語られている。ラストの決闘であっても、若者たちのような血なまぐさいものではなく、老人らしい終わり方となっている。

このキャラクターだからこそ生み出せた雰囲気なのだろう。



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