黙示 真山仁


 2016.4.21      農薬は必要悪か? 【黙示】

                     
黙示 [ 真山仁 ]
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■ヒトコト感想
プライド」の中の短編「一俵の重み」のキャラクターを登場させた長編作品。農薬は悪なのか、遺伝子組み換え食品とどちらが害なのか。世界規模の食の問題など、普通に生活していれば気づかない部分での問題が描かれている。農薬散布の事故により農薬を浴びたことで中毒症状に苦しむ子供。農薬は体に悪いとは気づいていたが、農薬を浴びることで命の危険があるということは知らなかった。

農業からは切り離せない問題として農薬がある。農薬を必要悪とするのかなんてことを考えたこともない。読者に問題を認識させるには、非常にすぐれた作品だが、物語として描かれると、なんだか焦点がアチコチ飛んでいるような気がしてならない。短編からの発展系としての面白さはある。

■ストーリー

農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落する事故が発生。重い中毒症状に苦しむ子どもたちを目の当たりにした世論は、農薬の是非のはざまで揺れることに。その間隙を縫い、農薬を必要としない遺伝子組み換え食品を推進するアメリカの巨大企業と、日本の食品の買い占めを目論む中国……。

■感想
農薬散布中の事故で、子供が中毒症状を起こす。農薬の恐怖というのを、普段はほとんど実感することがないので、強烈なインパクトがある。農薬がこれほど人に害を及ぼすのかと驚いた。普段口にする野菜や米には農薬が欠かせないものとなっている。

農薬を必要悪とすること自体、作中では拒否感を示している。農薬のせいでミツバチに影響がでており、農薬を害悪としようとする勢力。そして、農薬にとってかわる存在として、遺伝子組み換え食品がある。様々な要素で農薬を排除する手段が描かれている。

作中では農薬の問題とそれに起因するミツバチの話。そして、遺伝子組み換え食品と続いている。それとは別に政治家や農水省、そして外資系の勢力など、権力闘争も描かれている。農薬に焦点が当てられているのかと思いきや、そこまで農薬が悪だという流れとはならない。

急先鋒の養蜂家であっても、農薬を悪く言いすぎた、とトーンダウンしてしまう。農薬を完全になくすことは不可能なため、途中から明らかに流れが変わっている。世界規模の食糧危機を見越した遺伝子組み換え食品へと物語は流れている。

農薬会社の社員が主人公だが、農水省の官僚や、短編で登場した個性的な官僚まで登場し、将来的な日本の食糧危機について描かれている。地球規模では食料と水が今後不足していくのは明らからしい。となると、金がある国だけが豊富な食料を手にすることができる。

食料自給率が低い日本だからこそ、世界に食糧危機が訪れたときどうなるのか。遺伝子組み換え食品を無くすことはできない。人間にどのような害があるのかわからない。ジレンマを抱えながら農薬や遺伝子組み換え食品を使うしかないのが現状なのだろう。

短編で生み出された題材を長編化したということなのだろう。



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