蜜蜂と遠雷  


 2017.5.8      天才たちの世界 【蜜蜂と遠雷】

                     
蜜蜂と遠雷 [ 恩田陸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ピアノコンクールを舞台とした作品。ピアノになじみがある人は間違いなく入り込めるだろう。なじみがない人も、ピアノでプロになることの困難さは伝わってくる。ただ、作中に登場するピアノを聞いた際の感じ方の表現が、伝わるようでイマイチよくわからなかった。すばらしいピアノの演奏を聴いたときに感じる感覚ということで、未知の部分を文章にするのは難しい。

自分にピアノの演奏を聴いて感動するという経験があれば共感できたかもしれない。文章で描かれると、ピアニストの天才具合はなんとなくわかるのだが、その激しい感動というのは伝わってこなかった。様々なピアニストたちがそれぞれの人生に合せた演奏をし、そして結末が決まる。残酷なようであり、これが現実なのだろう。

■ストーリー
3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。

音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

■感想
ピアノコンクールに挑戦する様々な人物たちが登場してくる。各地を転々としピアノをもたない天才少年・風間塵。元天才少女でデビューしたが、母親の死をきっかけにプロを引退した亜夜、そして、完璧で嫌味のない天才マサル。さらには楽器店勤務のサラリーマン明石。

ピアノに対する思いは違えど、コンクールにのぞむ上でそれぞれ心に決めたものがある。個別のエピソードが語られ、それぞれが能力の高さを描かれている。これらのキャラクターたちがコンクールで競った時、どのような結果になるのかは興味深い部分だ。

本作で主役とも言うべき扱いは風間塵だ。他の出場者と比べると明らかにピアノに対する向き合い方が違う。ピアノをもたない天才ピアニスト。評論家からは称賛と激怒というふたパターンの評価となる少年。そんな少年が、審査を潜り抜け本線に到達した時、周りはすでに塵のピアノの虜となっている。

なんとなくだが、努力無く自然体でピアノで相手を感動させ、本人にその自覚がない天然なタイプというのが主役としてぴったりなのだろう。がっつりとプロを目指す他の天才たちと一線を画している。

マサルや亜夜は、ピアニストとして英才教育を受け、さらには才能もあるパターンとして描かれている。それなりに葛藤はあるとしても、塵とは種類が異なる。そんな中で、明石の存在がひときわ輝いているように思えた。

プロを諦めサラリーマン生活をしていた男が、ラストチャンスとして挑んだコンクール。プロのピアニストになることの厳しさと、コンクールにでることさえも難しい現実。恵まれた環境と、才能が合わさらないと、プロのピアニストは存在しない。世界に最も浸透している楽器なだけに、プロのハードルが高いのは当然だろう。

ピアニストの厳しさが強烈に描かれている作品だ。



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