未来形J 大沢在昌


 2016.7.8      チグハグなSF? 【未来形J】

                     
未来形J [ 大沢在昌 ]
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■ヒトコト感想
Jという姿のみえない存在から集められた個性的な5人の人々。占い師あり学生あり小説家志望のフリーターや女子中学生まで。Jの正体が不明で、ネットワークにつながっていないノートPCに文字を打ち込むとJから答えが書き込まれるというオカルト的な展開。Jが助けを求めていると知ると、5人はJの正体を探ることから始める。

Jに関して現実的な答えを示してくれるのかと思いきや、そうではない。Jの正体を探る部分がメインなのだろう。本作ではJ関連の謎が解明された後、エピローグを読者にゆだねている。ネット上で募集をかけ最も優秀な作品がエピローグとして公開されている。タイムパラドクス的な流れを無視した、ちょっと不思議なSF作品?なのだろう。

■ストーリー

小説家志望のフリーター・菊川真、大学院で地球物理学を専攻する茂木太郎、卜占術師・赤道目子、女子中学生・立花やよい、そして高校三年でスポーツ青年の山野透。何の共通点もない彼らは、ある日突然、Jと名乗る見えない存在の意思によって集められた。Jは言う。「あなたの助けが必要です」。Jとは何者なのか?何もわからぬまま行動を開始した五人組だが、Jとの対話を続けながら意外な真実に近づいていく。Jが握っている未来、それは―。

■感想
Jの存在が不気味だ。様々な手段で対象者と連絡をとるJ.通信環境が存在しないノートPCに文字を打ち込むとJからの返事が返ってくる。まったく現実的ではなく、論理的でもない。が、作中ではこのオカルト現象をそのまま信じて占い師が適度に占いをし、中学生や高校生がアイデアをだし、大学院生が知識を動員し、小説家志望のフリーターが想像力を働かせて行動する。

Jの助けを求める言葉を信じて、Jが何者かを探るのが本作のメインかもしれない。Jが見覚えのある単語にだけ反応することで、謎を小出しにすることができる。

J自身が助けを求めてはいるが、質問に対して的確に答えることができないため、謎を複雑にしている。キーワードを書き込み、Jがその言葉に覚えがあるかがカギとなる。なんだかむちゃくちゃな状況だが、5人はJの言うことを全面的に信用し、少しづつ謎を解き明かしていく。

荒唐無稽といったらそれまでだが、ミステリーとしての引きの強さはそれほどでもない。ありきたりな物語ではないが、Jの正体を含めて、最後には論理的な答えが示されるかと思ったが、そうでもない。最後まで不思議なSF?という感じで終わっている。

物語に決着はついたが後日談的な物語をネット上で募集し、優秀な作品が巻末に掲載されている。オチとしては未来人が過去に助けを求めたという形なのだろう。SFとしての緻密な計算があるわけではなく、ちょっとSF風にしてみました、というような印象を拭い去れない。

ネタとして未来人が過去に助けを求めたという流れならば、もっと複雑な伏線が張れたであろうが、そうはなっていない。作者にはこの手の作品は向いていないのだろう。ちぐはぐな印象ばかりが残っている。

新しい試みなのだろうが、違和感ばかりが残った。



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