黒の狩人 上 大沢在昌


 2016.2.22      日本における中国人社会の複雑さ 【黒の狩人 上】

                     
黒の狩人(上) [ 大沢在昌 ]
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■ヒトコト感想
狩人シリーズとして当然のごとく佐江が登場してくる。今回は中国人ばかりが狙われた事件を、中国人の毛という通訳をつけて捜査することになる。外務省や公安などがからみ、日本にいる中国人社会の複雑さが描かれている。基本的に日本にいる中国人はすべて悪人と考える佐江。日本人から嫌われていると認識しながら、うまく日本で金を稼ごうとする中国人。

日本人社会で中国人が生きることの苦労を描きつつ、ヤクザがからむ不可思議な状況を捜査する佐江。外務省の由紀側からの捜査と謎の中国人・毛が中国からきたスパイではないかという疑いを強める佐江。日本人と中国人との間に存在する根深い問題が根底にある。新宿を舞台にした中国人がらみの激しい犯罪小説だ。

■ストーリー

中国人ばかりを狙った惨殺事件が続けて発生した。手がかりは、死体の脇の下に残された刺青だけ。捜査に駆り出された新宿署の刑事・佐江は、捜査補助員として謎の中国人とコンビを組まされる。そこに、外務省の美人職員・由紀が加わり、三人は事件の真相に迫ろうとするが…。裏切りと疑惑の渦の中、無数に散らばる点と点はどこで繋がるのか。

■感想
中国人ばかりを狙った事件。外務省や公安も関わり、狩人シリーズの主役である佐江が、中国人の通訳・毛を引き連れて捜査をする。まず、この毛がなんらかの秘密を握っているのは間違いない。ヤクザに絡まれたとしても、あっさり返り討ちにしてしまう能力をもつ男。

中国から来たスパイではないかと疑われることになるが、その正体を見せない毛。佐江と毛の関係が、歪なようでありながら、ベストなコンビのようにも思えてしまう。下巻では毛の正体が明らかとなり、佐江となんらかの対決があるのは確実だろう。

外務省職員の由紀は、異常なほど情報に執着し、すべてを知ろうとする。愛人である公安刑事が殺されたと知ると、そこから執念のように佐江と関わり犯人を捜し出そうとする。ここでいつもの佐江の強引な捜査方法が描かれる。

ヤクザへの情報収集や、ヤクザをなめてかかる少年たちへの制裁など、本シリーズならではの流れがある。佐江が暴力的かというとそうではない。TPOをわきまえ、自分が縄張りを犯していると知ると、手を出すことはない。このメリハリが良い。

公安刑事を殺したのは誰なのか。中国人社会の要人たちを調査する佐江。数珠つなぎに中国人社会の内部へと入り込む。そこで描かれるのは、中国人がどれだけ日本人を信用していないかということと、いざとなれば中国に逃げ帰れるという強みだ。

ヤクザは中国人を良いように利用し、中国人もヤクザを利用して商売をする。佐江がたどりつきかけた犯人と思わしき人物。しかし、その男はすでに日本を脱出していた。佐江の中国人たちに対する聞き込みのスタンスが良い。佐江の情報収集での相手とのやりとりが面白さの肝だ。

下巻で、日本における中国人社会の全容が明らかとなるのだろう。



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