黒の狩人 下 大沢在昌


 2016.3.18      組織から抹殺される孤高の刑事 【黒の狩人 下】

                     
黒の狩人(下) [ 大沢在昌 ]
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■ヒトコト感想
上巻での中国社会の暗部に鋭く切り込む流れはすばらしかった。本作では公安や、さらには中国と日本の国家間での関係などにまで踏み込んでいる。不正が横行する中国。たとえ中国の公安的な立場の者でも、不正に手を染めたのが明るみにでれば、明るい未来はない。佐江と毛のコンビが公安の刑事を殺害した犯人を捜し出そうとする。

ひとつの出来事から次々と繋がりが明るみにでる。日本にいる中国人たちの社会に、ヤクザの利権が絡む複雑な関係があり、そこへ佐江が切り込む。単純な繋がりではなく、だましだまされ、正体を隠す中国人たち。日本における中国人たちの活動の複雑さを感じずにはいられない。さらには、公安警察のやり口にも強烈なインパクトがある。

■ストーリー

連続殺人を中国政府による“反政府主義者の処刑”と考えた警察上層部に翻弄される佐江たち。一方中国は、共産党の大物を日本に派遣し、事件の収束を図ろうとする。刑事、公安、そして中国当局。それぞれの威信と国益をかけた戦いは、日中黒社会をも巻き込んだ大抗争へと発展する…。

■感想
公安の刑事までもが殺された事件は、どのような解決をみるのか。佐江が調査する中で、中国を追われた殺し屋が日本へきており、その殺し屋により数々の殺しが行われたと判明する。実行者である殺し屋よりも、指示した者を追い続ける佐江。

相棒の中国人、毛の経歴が不明であっても、今までの働きからコンビを組むことを続ける。ヤクザが中国人を利用し、薬物で大儲けしようと考え、中国人はそれを知りながらヤクザをたくみに利用する。お互いの利害関係が一致したときに、強烈な協力関係が生まれる。

日中の黒社会を巻き込んだ事件の結末は、死んだと思われた者が裏で暗躍し、すべての黒幕的存在が、実は上巻から何食わぬ顔で登場していたとわかる。中国と薬物でのパイプでつながっていたヤクザが殺されたことで、中国人に疑いの目が向けられるのだが、真実は別にある。

作中での佐江たちの行動から、ひとつの事件の方向性が見えてくるのだが、そこに読者は騙されてしまう。実は裏では大きな秘密が隠されており、それが判明する後半では、かなり衝撃的な新事実が目白押しとなる。

中国共産党の大物、日本の公安、佐江と毛、そして外務省。あらゆる者たちを巻き込んだ事件は、おさまるところにおさまるような結末となる。裏切りや不正、私腹を肥やそうとする行動は、どこかでひずみが生じるのだろう。

ひとつのことに強く信念をもった者であれば、何かしら道は開けるということだ。佐江は最後まで公安や上層部の命令よりも、毛を助けるという自分の信念のもとに行動している。そのため、最後まで毛を殺そうとした者をしつこく追い詰めようとする。

佐江のような刑事は現実には存在しない。まっさきに組織から抹殺されるタイプだろう。



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