荒神 宮部みゆき


 2015.5.27      化け物が生まれた理由は 【荒神】

                     
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■ヒトコト感想

化け物が登場する物語。隣り合う二つの藩が反目し合い、様々な問題が起きる中で、突如巨大な化け物が登場する。人の力では抗うことのできない化け物。村人や侍たちでさえまったく歯が立たない。化け物の正体は何なのか?ということよりも、化け物の存在が不気味だ。蛇のようでもあり巨大な黒い塊のようでもある。目が存在しない状態で、口からは酸のようなものを吐く。

隣り合う藩同士の争いがかすむほど化け物と藩の関係は繋がりがあるように思えてくる。お家騒動から始まり、風土病や一方の藩がもう一方の藩に対して人狩りを行うなど、様々な要素がつまった本作。中盤から登場してくる化け物にすべての印象を持って行かれる感じになるのは仕方のないことだろう。

■ストーリー

元禄太平の世の半ば、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅状態となる。隣り合う二藩の反目、お家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯するこの土地に、その"化け物"は現れた。藩主側近・弾正と妹・朱音、朱音を慕う村人と用心棒・宗栄、山里の少年・蓑吉、小姓・直弥、謎の絵師・圓秀……

山のふもとに生きる北の人びとは、突如訪れた"災い"に何を思い、いかに立ち向かうのか。そして化け物の正体とは一体何なのか――!? その豊潤な物語世界は現代日本を生きる私達に大きな勇気と希望をもたらす。

■感想
化け物が現れ、ひとつの村を一夜にして壊滅状態にしてしまう。そこから始まる物語は、武力で周囲の村を恐怖に陥れる藩主の側近・弾正とその妹・朱音の物語へと移っていく。弾正が強権を発動させ、隣の藩の村へ人狩りを行う。それを快く思わない朱音。方や、化け物に襲われ命からがら逃げ延びた少年・蓑吉。そして、村の用心棒や謎の絵師など登場人物は様々だ。

人狩りについての批判が続き、朱音の思いが語られながら物語は進んでいく。弾正の恐怖支配に対する怒りは、すべての村人が持っている。そんな中で朱音は身分を隠し村人たちと交流しようとする。

物語の本質はなかなか見えてこない。朱音がどのような行動を起こすのか。怪物の姿がはっきりと描写されるようになってからは、怪物の脅威ばかりが強調されている。人間の手では決して敵わない巨大な力。どれだけすぐれた武力を持つ侍であっても化け物の前では無力。

人が束になってかかろうとも、びくともしない怪物。まさに本作はこの怪物の恐ろしさがすべてだ。弓矢は刺さらず刀は歯が立たない。口から吐き出される液体は酸のように人を溶かす。この怪物がどのようにして生まれたのか、そこに読者の興味はうつっていく。

物語は弾正と朱音の呪われた血筋の話となる。そして、化け物を倒すことができるのも、限られた者だけ。どのようにして、この完全無欠の怪物を倒すのか。謎の絵師や用心棒などあらゆる人々の協力により怪物を倒そうとする。

それとは別に絶対的な武力を誇った弾正の軍が、怪物にあっさりとやられていくのも、気持ち的に微妙な心境で読むことになる。今まで人を獣のように狩っていた存在が、今度は怪物に狩られていく。このあたり、容赦ない描写は作者らしい。

着地点がどうなるのか不安だったが、しっかりとすべての謎が解明されている。



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