こうふく あかの 


 2017.8.19      よくわからない幸福感がある 【こうふく あかの】

                     
こうふくあかの [ 西加奈子 ]
評価:3
西加奈子おすすめランキング
■ヒトコト感想
こうふく みどりの」と連携したタイトルだが内容は別物だ。39歳の管理職の男が妻に浮気をされ、知らない男の子供を妻が産むという現在の物語と、未来のプロレスラーの物語が交互に語られている。最初は何の関係もないと思われたふたつの物語は、後半になるとそのからくりが見えてくる。

39歳の男が周りの目を気にしたり、同僚とのマウンティングや妻のおなかの子供について悩み苦しむ。それと並行して人気レスラーが正体不明のレスラーに挑戦されるという物語が合間に挟まれる。印象深いのは、39歳の男が同期の冴えない男と飲みにいったプロレスバーのような飲み屋だ。店主と店員がひたすら猪木のビデオを見続ける店。なんだか妙な伏線だ。

■ストーリー
結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の俺の妻が、ある日、他の男の子を宿す話。二〇三九年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。この二つのストーリーが交互に描かれる。三十九歳の俺は、しだいに腹が膨れていく妻に激しい憤りを覚える。

やがてすべてに嫌気がさした俺は、逃避先のバリ島で溺れかけ、ある光景を目にする。帰国後、出産に立ち会った妻の腹から出てきた子の肌は、黒く輝いていた。負けることなど考えられない王者、アムンゼン・スコットは、物語の最後、全くの新人レスラーの挑戦を受ける。

■感想
39歳の男は、妻との間では何の不満のない生活を続けてきた。唯一、子供がいないことを除いて。数年間SEXをしていないはずが、ある日、妻から子供ができたと告白される。この時の男の苦悩はすさまじく、世間体を考え自分の子供と偽ることにする。

それが実はバリ島旅行で妻が現地人とのアバンチュールでできた子供だと知ると、悩みは深くなる。主人公の男が何かと部下たちに気を使いながら、同期については、自分の方が価値があると思わせたい雰囲気がありありとでている。

未来のプロレスラーの物語は、アムンゼンというスターレスラーの物語がツラツラと続いているだけかと思いきや、後半になると謎の新人レスラーに挑戦されることになる。現代の物語で、ヘンテコなプロレスバーで飲むことが定番となり、そこでのやりとりが、何かしら未来のプロレスラーの物語と関係があるのかと想定できる。

後半になってくるとひとつひとつの要素が繋がりはじめ、物語の時間的な流れと繋がりがはっきりとしてくる。ここまでくると、謎のレスラーの正体が誰かということもおのずと想定できてしまう。

なんだかかんだとありながら、39歳の男は、妻の産んだ子の肌が黒くても認知することにした。まさに余計なトラブルを避ける男らしいのだが、周りは明らかに変な雰囲気となる。特に義理の母親などは、娘の不始末に低身低頭で謝罪を続けるしかない。

未来のプロレスラーの物語については、想定できた人物たちが関係してくる。強烈なインパクトはないのだが、不明な要素に少しづつ繋がりが見えることで、すっきりとした気持ちになるのが良い。

ラストは、なんだかわからない幸福感に包まれる。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp