2017.8.5 ディープすぎるみどりの周囲 【こうふく みどりの】
こうふくみどりの 小学館文庫/西加奈子
評価:3
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■ヒトコト感想
女だらけの辰巳一家の物語。14歳のみどりが主人公であり、転校生のコジマケンとの学生生活が描かれている。みどりの周りにいる女たちのそれぞれの人生が語られているのだが、印象深いのは子持ちの藍ちゃんの話だ。料理上手で太ってはいあるが良い匂いがする。影のある魅力で周りの女性を惹きつけるコジマケン。みどりの同級生でモテモテの明日香。女同士のライバル意識あり、喧嘩っ早い子供を持つ親あり、夫が殺人者となってしまった妻あり。
なんだか強烈な人生ばかりだ。そんな中で、みどりだけはなんだかよくわからないまま、人生を受け入れている。女ばかりの生活に微妙な変化が訪れるのは、コジマケンがやってきたときだけ。誰でも受け入れる辰巳一家の物語だ。
■ストーリー
「お前んち、いっつもええ匂いするのう。」そう言った転校生のコジマケンが気になる緑は、まだ初恋を知らない十四歳。夫(おじいちゃん)が失踪中のおばあちゃん、妻子ある男性を愛し緑を出産したお母さん、バツイチ(予定)子持ちの藍ちゃん、藍ちゃんの愛娘、桃ちゃん。なぜかいつも人が集まる、女ばかりの辰巳一家。そして、その辰巳家に縁のある、謎の女性棟田さん。それぞれの“女”が人知れず抱える、過去と生き様とは―。
■感想
女だけで生活する辰巳一家。一家に男がいないのには、離婚、死別など様々。出戻りの藍ちゃんが料理をつくり、おばあちゃんが皆を仕切る。14歳のみどりは何不自由なく学生生活を送るのだが…。そこにコジマケンが転校してきたことで波風が立ち始める。
みどりの親友でモテモテの明日香がコジマケンを好きなようなそぶりを見せる。微かにコジマケンに惹かれているみどり。ここで親友と好きな男の間に挟まれる微妙な心理が描かれている。普通の恋愛物語と決定的に違うのは、コジマケンの気持ちがまったく別を向いているということだ。
コジマケンが近所のみどりの家で偶然食事をすることになる。ここから、物語は波乱万丈となっていく。時系列が入り組み、誰の物語かわからない女の物語が突如スタートするが、それは辰巳一家にとってとても重要な人物ということになる。
物語の終盤で人物同士の繋がりが見えてくる。ただ、そこにミステリアスな何かがあるわけではない。辰巳一家の前でたたずんでいる女の正体は?コジマケンが刺青を入れるほど愛した女は?謎が解けた際には強烈なすっきり感があると共に、なんだかうすら寒くなる部分もある。
女ばかりの辰巳一家に大きな変化はない。コジマケンという遺物が入り込んだとしても、それは一過性のものでしかないのだろう。男がひとりもいないことによる影響はないように思えるのだが、コジマケンがもし正式に辰巳一家に入るとしたら、大きな変化だろう。
14歳のみどりが経験するには、コジマケンを奪い合う三角関係程度ならば問題ないのだろうが、それ以外の出来事は重すぎる。作者はたまにとんでもなく重い話をぶっこんでくるのだが、本作でもとてつもなく重いエピソードが1つ2つある。
みどりの周りはディープすぎる。
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