コモリと子守り 歌野晶午


 2015.11.15      新しい誘拐事件のパターン 【コモリと子守り】

                     
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■ヒトコト感想

舞田ひとみシリーズ。11歳、14歳ときて、今回は17歳だ。いきなりひとみが幼児の面倒をみていることから、何があったのか?とシリーズの読者は驚くだろう。子供の面倒をみることが、本作の重要なカギとなっているのは間違いない。引きこもりの男が、近所で虐待を受けていると思われる赤ちゃんを助け出す。それは、はたから見るとただの誘拐でしかない。

最初にジャブとして小さな誘拐事件が起こり、その後、二つの誘拐事件が同時に発生する。それぞれが幼児誘拐であり、別々の誘拐事件のはずが同一犯のように連係した流れとなる。犯人の目的は何なのか。そして、トリックは…。複雑な誘拐事件かと思いきや、オチは意外なほど単純だ。誘拐事件のパターンとしては、あたらしいかもしれない。

■ストーリー

窮地に陥った引きこもりの友を助けるため、勉強と育児に忙しい17歳の舞田ひとみが、前代未聞の幼児誘拐事件に挑む!巧緻きわまりない本格ミステリーにして、誘拐ミステリーの新たな傑作。

■感想
今回も舞田ひとみが事件を解決する。狂言回し役は、元同級生であり、現在引きこもり真っただ中の男だ。高校にいかず引きこもり続け、親からは金を与えられず、携帯を持たないため連絡手段がない。そんな状態でありながら、近所の小さな子供が親に虐待されていると気になってしょうがない。

パチンコ屋の駐車場で車の中に放置されている子供を助ける正義感はすばらしいが、そのまま家に連れて帰るのは、ただの誘拐事件でしかない。まず、このちょっとした誘拐事件が物語の序章となる。

ひとみは相変わらず刑事の土方のアドバイザー的立場で、事件を推理していく。その推理力はすばらしいが、なにせ勉強と子育てに忙しいので、あまり事件には関わらない。ふたつの誘拐事件が同時に発生した際には、メインは土方と、事情をよく知る引きこもり男が物語を進めていく。

まったく見ず知らずの二組の夫婦の子供がそれぞれ誘拐され、身代金を要求される。2歳適度の小さな子で、性別は違う。接点のない二組の子供がなぜ誘拐されたのか?犯人からの指示は、まるで二組を混乱させるように、入り組んだ指示が出され続ける。

ミステリーとして、本作のような誘拐事件のパターンは読んだことがない。非常に入り組んではいるが、オチを知るとシンプルだということに気づく。誘拐事件としては新しいパターンだろう。ただ、読後感はそれほど良いわけではない。

できちゃった結婚をして、しょうがなく子供を育てるような夫婦が、子供を邪険に扱う。虚構の物語というのはわかっていても、そこに至る過程を読まされると心が痛くなる。子供を誘拐された親としては、なんだか変だ?と思う部分が多々あったのだが、オチを読むとその理由も納得できる。

新しい誘拐事件のパターンかもしれない。



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