心では重すぎる 上 大沢在昌


 2016.10.6      チンピラに対しても紳士的で大人の対応をする 【心では重すぎる 上】

                     

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■ヒトコト感想
佐久間公シリーズ。主人公の公が探偵であり武闘派ではない。そのため、作者のハードボイルド作品にありがちな激しい暴力というのが一切存在しない。ヤクザに相対したとしても丁寧な言葉づかいと大人の対応で乗り越えてしまう。この大人の雰囲気が良い。かつての人気漫画家の捜索や、薬物からの更生施設を抜け出した男を探しだすなど、それぞれは別の依頼のように思えるが、のちのち繋がってくるのだろう。

漫画家の捜索過程で、出版社とマンガの関係や、漫画家の苦悩が語られている。もしかしたらこの部分を作者はアピールしたかったのだろうか。他者を圧倒的に支配する女子高生が登場したりと、下巻へと続く興味がつきることはない。

■ストーリー
失踪人調査専門の探偵・佐久間公シリーズの長編第4作。今回依頼されたのは、行方知れずとなったかつての人気漫画家の捜索であった。一方、静岡の更正施設に入居中の少年が、自分が立ち直るには「飼い主様」が死ぬしかないと訴えた。

渋谷のチーマーだった彼がそれほどおびえる人物は何者か。失踪人捜索の合間に渋谷を訪れた佐久間は、いじめ行為による仲間の結束、メールを介した情報の氾濫、メリットのみを共有する友人関係など、自分には理解し難い少年少女の実情を目の当たりにした。

■感想
超人気漫画家が、今はどこにいるのか行方知れずとなる。漫画家の捜索を依頼された公。事件性もなく、ただ元人気漫画家が表舞台から姿を消しただけのように思えるのだが…。漫画家の捜索過程で、出版社とマンガの関係や、漫画家の苦悩などがわかりやすく描かれている。

出版社にとって週刊マンガは稼ぎ頭だが、文化的とは言えないため立場は弱くなる。強烈なヒットを飛ばし、日本中誰もが知るような漫画家となったとしても、その後継続して活動がなければ、世間からは忘れ去られてしまう。このあたりは、ハードボイルドとは繋がりのない、ごく普通の探偵業務だ。

薬物から更生させるための施設から逃げ出した元渋谷のチーマーがいた。追いかける公は、男が何者かに支配されていることを知る。それは、奴隷を多数引き連れる女子高生だった。相手を屈服させコントロールする。まるで主人と奴隷のような関係を作り上げる。

友人関係が希薄なことと、みなから仲間はずれにされることを極度に恐れる少年少女たち。激しい怒りを心に持つ少女の目的は何なのか。冷静な公すらも自分のコントロールを忘れ、怒りに心が沸き立つのはなぜなのか。

漫画家捜索と女子高生と男の関係など、物語はそれぞれ別に動いているように思えるが、下巻では繋がりが見えてくるのだろう。作者のハードボイルドでは珍しく、暴力描写が少ない。公は例えヤクザと相対したとしても、暴力に訴えることはない。

生意気なチンピラに対しても紳士的に大人の対応をする。ヤクザの二代目との丁寧なやりとりは秀逸だ。なんでもかんでも相手をぶちのめせば良いというものではない。現実に則したというか、暴力で危機を抜け出す類の作品でないことは確かだ。

公の大人の対応が強烈に心に残っている。



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