心では重すぎる 下 大沢在昌


 2016.10.18      ギリギリの駆け引きと心理戦 【心では重すぎる 下】

                     

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■ヒトコト感想
失踪した漫画家を探すはずが、いつの間にかヤクザの巨大な利権や、怪しげな自己啓発団体、そして強烈に相手に悪意を放つ女子高生の錦織と絡むことになる。薬物に汚染された渋谷を舞台にヤクザが薬物利権を手に入れるために暗躍する。そこに紛れ込む形となった公。

公は自分が知りたいという欲求を抑えることができず、さまざまなことに首を突っ込む。その結果、ヤクザに殺されそうになったとしても情報を提供することで生き延びる。ギリギリの駆け引きと心理戦。あっさりと暴力で解決する安易なハードボイルドとは違う。相手に利益がある情報を与えることで窮地を脱している。公が理解できない世界で生きる者たちを描いたハードボイルド作品だ。

■ストーリー
失踪したマンガ家の捜索を続けるうちに、少年たちを次々と虜にする少女に行きついた佐久間公。薬物に汚染された渋谷を舞台に、ヤクザ、マンガ家、そして過去にあやしげな宗教団体を立ち上げようとした経緯など、さまざまな要素が絡みあう。公は自分には理解し難い者たちの心の奥底を覗き見ることになる。

■感想
元人気漫画家が失踪する。それを調査するはずが、いつの間にか深入りしてしまう公。薬物からの更生施設・セイルオフから逃げ出した男は、結局自殺してしまう。ここに悪意を放つ特異な女子高生・錦織の存在がある。公の調査により漫画家と錦織の繋がりが明らかとなる。

上巻ではまったく無関係と思われた二つの出来事が、下巻で鮮やかに繋がってくる。週刊誌連載の漫画家の苦悩が描かれていることに変わりはないのだが、そこから転落するまでが、まるで誰かモデルがいるかのようにリアルに描かれている。

ヤクザの二代目である遠藤と公の対決はしびれる展開だ。遠藤の策略を見抜いた公が、そのことを遠藤に告げる。となると遠藤は公を殺すしかない。殺されたくない公は遠藤にある情報を与える。そのことにより、公は生き延びることができる。

暴力で危機をくぐりぬけるわけではない。相手に攻撃されればやられるだけの公。相手が痛めつける目的であれば、それを受け入れるしかない。作者のハードボイルドのキャラとしては珍しい部類だろう。万能なキャラでは面白味がないのも確かだ。

公は暴力で相手を屈服させることはできないが、代わりに相棒の沢辺が西のヤクザの力を使い、公に手を出させないようにする。公のせいでヤクザを追われた者たちが、公の元へ復讐にやってきた時に…。公はそこでも危機を乗り切ることができるが、復讐に来た元ヤクザたちを殺そうとはしない。

公はとことん主人公的なキャラクターだ。暴力に訴えず相手と駆け引きし情報により立ち回る。暴力をふるわれたとしても、それはそれこれはこれと割り切る。このキャラは良い。

公のキャラと特殊な事件が物語を盛り上げている。



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