危機の宰相 沢木耕太郎


 2016.2.17      「所得倍増計画」の衝撃 【危機の宰相】

                     
危機の宰相 [ 沢木耕太郎 ]
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■ヒトコト感想
自分が生まれる前、日本全体が所得倍増への道を邁進した時代を描いた作品。「所得倍増計画」は聞いたことがある。池田勇人も聞いたことがある。が、具体的にどのようなことがその当時行われていたかは良く知らない。総理大臣として池田がどのような活動をしたのか。また、池田のブレーンとして下村や田村といった人物たちが存在し、日本の経済について議論していたことなど。

戦後の日本が復興する上で、最も重要な時期という描かれ方をしている本作。歴史的な意義や小難しい記述もあるが、何にせよ、その時、彼らがどのような思いで政治活動を行っていたのかをリアルに感じることができる。この手の政治ドキュメンタリー作品を読むのは初めてだが、予想外にのめりこむことができた

■ストーリー

1960年、安保後の騒然とした世情の中で首相になった池田勇人は、次の時代のテーマを経済成長に求める。「所得倍増」。それは大蔵省で長く“敗者”だった池田と田村敏雄と下村治という三人の男たちの夢と志の結晶でもあった。戦後最大のコピー「所得倍増」を巡り、政治と経済が激突するスリリングなドラマ。

■感想
「所得倍増」というキャッチコピーは衝撃的だ。1960年代から確かに物価は明らかに上昇している。今考えても信じられないほどの上昇率だ。その当時はわからなくとも、今となっては当時はかなりのぼり調子だったということがわかる。

そんな時代をけん引した池田総理大臣とそのブレーンである下村と田村。三人がどのような思いで「所得倍増」にとりくんでいたのか。取材と文献によりあますことなく、ドラマチックに描かれている。政治ノンフィクションに興味はなかったが、架空の物語以上のワクワク感がある。

印象的なのは、池田や下村や田村が皆、一度病気で挫折しているということだ。特に池田が難病を患い、そのせいで奥さんを亡くしていたことに驚いた。大蔵省で働いてはいたが、病気により辞めざるお得ない。その後、復帰してからとんとん拍子に政治家となり大臣にまで上り詰め、ついには総理大臣になってしまう。

戦後という時代のためか、官僚から政治家への転身というのが当たり前の時代だったのだろう。池田のブレーンや政治家仲間は、官僚出身か官僚から秘書となりそのまま政治家となるパターンが多いことに驚いた。

当時と今とでは物価は2倍以上となっている。ただ、この時代の物価上昇と最近の物価上昇を比べると明らかな差がある。戦後と現在を比較してもしょうがないのだろうが、その時代をけん引した政治家たちの熱い思いが強烈に伝わってくる。

ノンフィクションではあるがドラマチックな展開であり、政治にそこまで興味がない人であっても楽しめる要素はある。有力な政治家の周りには同じく能力の高い者たちが集まりやすいのだろう。それらの者たちが、必死に日本の未来を考えて活動してきたことが、作品から伝わってきた。

本作を読むまでは、池田勇人の政治的成果などまったく知らなかった。



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