2016.6.11 人類が子供を産めなくなる世界 【彼女は一人で歩くのか?】
彼女は一人で歩くのか? [ 森博嗣 ]
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■ヒトコト感想
Wシリーズ第一弾。未来を描いた作品として、人間と見た目はそっくりのウォーカロンが登場してくる。普通の人間が天然ものならば、ウォーカロンは養殖もの。その程度の違いしかない。ただ、人間とウォーカロンの違いを見分ける技術をもつハギリが本作の主人公となる。特殊な技術をもつハギリは何者かに狙われることになる。
その理由はウォーカロンを製造販売する巨大メーカーの陰謀なのか、それとも人間が子供を産めなくなった秘密に気づいたためなのか。未来の世界として、ウォーカロンがいる世界というのは想像できる。ただ、人工細胞により死ななくなった人類が子供を産めなくなるというのは衝撃的だ。子供を産めなくなるロジックも的を射ているようで恐ろしくなる。
■ストーリー
ウォーカロン。「単独歩行者」と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。
■感想
ロボットが人間の補助をする世界。その究極の形が本作なのだろう。見た目はまるっきり人間と変わらない。ただ、細胞が人工で培養されて生まれてきたのか、人間の女性から生まれてきたのか、その違いしかない。マグロが養殖か天然かの違いのようなレベルなのだろう。
人間の子供が生まれなくなり、労働力をウォーカロンに頼るようになると、いずれ世界はウォーカロンしか存在しなくなる。非常に恐ろしい未来だ。人間とウォーカロンを見分ける技術をもつハギリが狙われる理由は、何かしら巨大利権が関わっているのだが、理由がはっきりしないだけに恐ろしい。
ハギリのキャラクターはいつもの作者の作品と同様に、常に合理的な思考と行動をとる。そのため、非合理的な言葉や行動に対して純粋な疑問をもつ。ハギリの無機質な感じが、未来的というか未来人的な印象を与えている。
さらにはハギリを護衛するウォーカロンは、ハギリ以上に合理的で命令を忠実に守るため、どこかロボット的な印象がある。が、作中に登場する人間の中には、ウォーカロン以上にロボット的な人物もいるために、はっきりとした違いとして描かれているわけではない。
作者の作品ではおなじみのマガタ博士の名前が登場してくる。そして、印象的なキーワードと、ハギリたちに襲いかかる謎のウォーカロンを停止させる術なども語られている。冒頭の雰囲気からして、明らかにマガタ博士の匂いを感じることができた。
いつか出てくるだとうとは思っていたが…。人間が生まれない仕組みとその原因についても語られ、その根拠がやけにリアルで恐ろしくなる。2世紀以上も前の存在であるマガタ博士のプログラムが、未来の世界でも影響するのか。
特殊な未来であることは間違いない。
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