神々の山嶺 下 夢枕獏


 2016.12.30      8000メートル級登山は死への道 【神々の山嶺 下】

                     

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■ヒトコト感想
上巻が深町や羽生の紹介パートであるならば、下巻は羽生のエヴェレスト登頂がメインなのだろう。南西壁冬期無酸素単独登頂をひそかに目指す羽生。それを知ってしまった深町はカメラマンとして同行することになる。冬期のエヴェレストに無酸素で登頂することの困難さが強烈に描かれている。カメラマンの深町は羽生が作り上げた道を進んでいるにも関わらず、無酸素の辛さが体をむしばんでいく。

8000メートルを超える高所であれば、ただそこにいるだけで死が近づいてくる。高度に順応したとしても8000メートルから上はまさに別世界だ。一歩進むたびに、次の一歩の足を出す準備と呼吸を整える作業に時間を要する。想像を絶する過酷な世界が詳細に描かれている。

■ストーリー
その男、羽生丈二。伝説の単独登攀者にして、死なせたパートナーへの罪障感に苦しむ男。羽生が目指しているのは、前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂だった。生物の生存を許さぬ8000メートルを越える高所での吐息も凍る登攀が開始される。人はなぜ、山に攀るのか?

■感想
エヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂。その困難具合はよくわからないが、無酸素と単独というところに特別感を感じた。8000メートルを超えると酸素を吸わなければ呼吸をするたびに脳細胞が死滅していく。ただ、ボンベを担いで登ることはそれだけで体力を激しく消耗してしまう。

無酸素の苦しさは8000メートルを超えると、どのような体勢でも休むことができず、山を下りなければ、最悪死んでしまうということだ。体が疲れたからといって、そこにたたずむと死ぬ。かといって降りる体力もない。無酸素登頂の恐ろしさが詳細に描かれている。

羽生の登頂を少し遅れてついていく深町。羽生が作ったルートをなぞることで楽をしてはいるが、それでも死を感じながらの登頂となる。深町が感じる無酸素登頂の辛さは、山の経験がない者にも伝わってくる激しさがある。

足を一歩前にだすのも辛い。眠っていても辛い。座っても辛い。何をしても辛い。この辛さから逃れるのは、死ぬか山を下りるしかない。このとんでもない荒行をすすんで実行している羽生の強靭な精神力。深町から見た羽生はバケモノに違いない。

人がなぜ山に登るのかの答えはここにはない。ただ、不器用な男が山に命を賭け、それをカメラにおさめようとした男がいた。本作を読むと、山に登ろうとは思わないにせよ、何か心の中に熱くこみあげてくるものがあるのは間違いない。冬のエヴェレストほどではないにせよ、誰しも辛い状況はあるだろう。

そんな状況にぶち当たったとしても、一歩一歩少しずつでも着実に前にすすむことはできそうな気がしてくる。エヴェレスト登山の過酷さを読まされると、最近、ネットで話題となっている無酸素単独登頂の登山家について、ちょっと知りたくなったりもした。

山に興味がなくとも、山の過酷さが必ず伝わってくる作品だ。



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