2016.12.6 すさまじい登山に対する熱量 【神々の山嶺 上】
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■ヒトコト感想
強烈な登座小説だ。エヴェレスト初登頂の歴史的新事実を解明するチャンスを得た深町。謎を解く過程で羽生という登山家と出会う。エヴェレスト初登頂の謎よりも、羽生の壮絶な登山家人生の方が強く印象に残っている。山に登ることに人生を賭けた孤高の登山家羽生。そして高い能力を持ち常に羽生の一歩先をいく長谷。
長谷が前人未到の地へ初登頂すれば、羽生も負けじと追いかける。無酸素単独登頂を目指す者たちのすさまじい生き様が描かれている。他の登山関連の小説とは違う、山に対する熱い思いを感じずにはいられない。登山描写の精密さで言えば、マンガ版の「岳」に近いかもしれない。下巻では羽生の無酸素エヴェレスト登頂へのチャレンジが描かれるのだろう。
■ストーリー
カトマンドゥの裏街でカメラマン・深町は古いコダックを手に入れる。そのカメラはジョージ・マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、という登攀史上最大の謎を解く可能性を秘めていた。カメラの過去を追って、深町はその男と邂逅する。羽生丈二。伝説の孤高の単独登攀者。羽生がカトマンドゥで目指すものは?
■感想
最初は深町がエヴェレスト初登頂の謎に迫るミステリーかと思っていた。古いコダックの中に入っていたはずのフィルム。それを見つけ出すことがエヴェレスト初登頂の歴史的事実を覆すことになる。深町が調査の過程で出会った羽生という男。
この男との出会いが物語の方向性を一気に変えている。羽生が幼少期から登山というものに強い憧れをもち、知らず知らずのうちに山のスペシャリストとなる。羽生が他者に対しても自分と同じ熱量で山に登ることを要求する。このスペシャリストゆえの気難しさが良い。
羽生の登山家人生が描かれている本作。そこで同時代に生まれた天才長谷が、常に羽生よりも一歩先の成果をだすことに羽生はいらだっていた。気難しく仲間から敬遠されがちな羽生と、仲間に恵まれ才能と能力がある長谷。対照的なふたりだが山に対する強い思いは同じだ。
本作では登山の過酷な部分も描かれている。深町が仲間と共にエヴェレストへ登ろうとした際の事故。羽生が自分を慕う後輩を連れて登った山での事故。そして、天才長谷でさえも山の気まぐれには打ち勝つことはできない。
すさまじく強烈なのは、羽生が単独登頂中に滑落寸前で氷壁にぶら下がる場面だ。右手を骨折した状態で宙ぶらりんになる。そこから一人で這い上がることは到底無理だとなると、どのようにして生還するのか。羽生が生きるためにとる行動と、それを詳細に描ききる筆力。
フィクションとわかっていてもその描写に圧倒されてしまう。本作を読むと、登山に対する憧れのような気持ちがわいてくる。が、同時に、非常に危険な行動だということもわかる。
山で遭難しかける描写はすさまじすぎる。
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