一年分、冷えている 大沢在昌


 2015.9.17      男女、さまざまな人間模様 【一年分、冷えている】

                     
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■ヒトコト感想

ひとつひとつは非常に短くサラリと読める短編集。作者のテイストはでている。ハードボイルド風であり、渋い男や、男女の大人の関係など様々な人間模様が描かれている。ただ、ひとつひとつが非常に短いので、瞬間的には心に残るが後に引くことはない。元は航空会社の機内誌に連載されていたものらしい。そのため、男女の物語が多い。

仕事に疲れたビジネスマンが、移動の飛行機の中でちょっと小説を読む。十分程度で読める長さは心地良く、機内を降りるころにはすっかりと忘れている。あえて、そのような短編として描いているのだろう。大人にしかわからない雰囲気が漂い、中にはニヤリとするようなオチもある。長編に飽きた人は読んでみると良いだろう。

■ストーリー

…そのとき、彼は悟った。そこにあるのはただひとつの真理、「人生には一杯の酒で語りつくせぬものなど何もない」という、古人の諺だった。彼はグラスを空にした。目的はただひとつだった。二杯目を頼むことだ。〈二杯目のジンフィズより〉それぞれの酒、それぞれの時間そして、それぞれの人生。街で、旅先で聞こえてくる大人の囁きをリリカルに綴った掌編小説集。

■感想
大人の短編集だ。ひとつひとつがかなり短く、通勤通学電車でかなり読めるだろう。大人の男女間の話がメインとなり、わかりやすいものではない。ある程度人生経験をつんだ人であれば共感できる部分もあるだろう。何も考えず、答えだけを求める人には向かないかもしれない。

どちらかというと、ハードボイルドよりの短編が多い。そして、タイトルの付け方がすぐれている。「ちゃま」などは、それだけではまったく意味がわからない。作中の物語を読むことで、意味がわかってくる。この雰囲気が良い。

「懐中時計」は、内容とは別に、ふと自分が社会人になったときに、先輩が持っていた懐中時計を思い出した。内容よりも、短編に登場してくる小道具に反応してしまう。今はほとんど持っている人はいないと思うが、先輩の世代には何かしら持つことに意味があったのだろう。

作中では新人が持つのは生意気だという流れとなっている。懐中時計にそのような意味があるのか?とこのあたりは世代間のイメージの違いなのかもしれない。古い作品なので、そのあたりの違いを楽しむのもよいのかもしれない。

ゴルフや釣り好きの作者の趣味が影響している作品もある。特別それらの知識がなくとも物語としては問題ない。「マッチプレイ」などは、まさにゴルフをプレイし、マッチプレイをやったことがある作者だからこそ感じるものなのかもしれない。

まったくゴルフをやらない自分からしたら不思議な心境なのだが、心理的な部分がプレイに影響するのはまさにゴルフだからだろう。多趣味な作者の興味が強くでている作品もあれば、酒と女というザ・ハードボイルド的雰囲気の短編もある。

作者の長編に飽きてきた人にはちょうど良いかもしれない。



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