一人っ子同盟 重松清


 2015.6.6      団地に住む一人っ子たち 【一人っ子同盟】

                     
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■ヒトコト感想

昭和40年代。団地で生活する小学生たちの物語。今ではそれほど珍しくない一人っ子は、昭和40年代であれば珍しい。両親と子供二人以上が普通だ。そんな時期に、一人っ子の主人公のノブ。そして、母子家庭のハム子、老夫婦に引き取られたオサム。三者三様で様々な事情がある。特に、ハム子とオサムの事情は複雑だ。母親の再婚相手に、決して心を開かないハム子。

両親が自殺し、親戚中をたらいまわしにされたオサム。ノブも、幼い時になくした兄の存在がなにかと足かせとなる。一人っ子だから、というわけではないが、兄弟がいればまた違った流れになったのでは?と思えるような子供たちばかりだ。一人っ子のイメージは今よりも昔の方が辛いイメージなのだろう。

■ストーリー

あの時のぼくたちは、「奇跡」を信じて待つことができたんだ――。両親がいて、子どもは二人。それが家族の「ふつう」だったあの頃。一人っ子で鍵っ子だったぼくとハム子は、仲良しというわけではないけれども、困ったときには助け合い、確かに、一緒に生きていたんだ。昭和40年代の団地で生きる小学校六年生の少年と少女。それぞれの抱える事情に、まっすぐ悩んでいた卒業までの日々の記憶。

■感想
鍵っ子という言葉に、幸せな響きはない。今であれば、鍵を持って学校に行く子供なんてのは当たり前すぎて鍵っ子という言葉は成立しないのだろう。昭和40年代だからこそ、感じる響き方がある。そもそも団地の生活というのも、かなりご近所との関係が親密な印象がある。

そんな中で、ノブの周辺には母子家庭のハム子や嘘つきで調子の良いオサムなど、変わった一人っ子と深い関わりができてくる。実の兄が、ノブが幼い時に交通事故で死んでいる。その時のショックをノブの両親はいまだに引きずっている。非常にきつい状況というのは伝わってくる。

ハム子のエピソードは強烈だ。見た目はかわいいのだが性格がきつく、ぶっきらぼうで正論を吐く。母親の再婚相手に決してなじもうとせず、連れ子の弟さえ馬鹿にしながら相手をする。ハム子が一番根が深いような気がした。

小学六年生ともなれば、それなりに世間を知る時期だ。そんな多感な時期だからこそ、反抗するのはわかる。が、表面上は良い子で何の問題もないのだが、再婚相手に対して常に一歩引いたスタンスをとる。こうなると、親は何も言えない。悪いことをしているわけではないからだ。一番やっかいなパターンだ。

ノブの近所の老夫婦に引き取られたオサムは、出自が衝撃的だ。様々な親戚からたらいまわしにあうというのは、幼いながらに衝撃だろう。相手の気を引くために嘘をつく。そして、相手の触れられたくない部分にずけずけと入り込む

ノブの兄のことについて、必要以上に絡むのは、いくら小学生と言えども意図的な何かを感じずにはいられない。お決まり通り、オサムに友達ができるはずもなく、周りからは孤立していく。そんなオサムの姿を見たノブが、安易に友達になるわけではないのが良い。

一人っ子が題材になる時代は、昭和なのだろう。



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