春に散る 上 


 2017.6.15      元ボクサーたちの共同生活 【春に散る 上】

                     
春に散る 上 [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
元ボクサーの男が40年ぶりにアメリカから日本に帰ってきた。そこで、青春時代を共に過ごした4人の元ボクサーと共同生活を始めるまでが描かれている。作者の沢木耕太郎はボクシングにかなりのめりこんでいる。ボクサーの取材を通して経験したことが物語として描かれているのだろう。

結局世界チャンピオンになれなかった4人のボクサー。引退した後は、それぞれの人生がある。ボクサーの輝く時期は一瞬で、その後の生活の方が当然長い。アメリカで実業家として成功した男や、刑務所に入った男まで。作者の性格を反映しているのか、登場人物たちが裏表なくみな性格の良い人物ばかりだ。そのため、物語に起伏がなくサラリと流れていくように感じられた。

■ストーリー
四十年ぶりにアメリカから帰国した一人の男。かつてボクシングの世界で共に頂点を目指した仲間と再会して―。俺たちにはまだ、やり残したことがある。

■感想
主人公の広岡が礼儀正しく規則正しい生活を送る、まさに正しい人間のお手本のような人物だ。元プロボクサーで世界チャンピオンになりそこねた男。アメリカに渡りボクシングを続けるが成功せず、その後、実業家として成功する。うなるほど金があるにも関わらず、そのことを隠しながらつつましい生活を続ける。

60を超えた年齢であることから、どこか枯れた隠居のようなイメージすらある。元ボクサーとしての熱さよりも、人生を悟ったような欲望のない生活の方が印象に残っており、そのため、現実感のないキャラクターのように思えた。

広岡と同時期にジムで青春時代を過ごした3人の仲間は非常に個性的だ。傷害事件を起こして刑務所に服役中の者。農業をやるはずが兄弟との折り合いが悪く、世捨て人のような生活をする者。奥さんの小料理屋の収入で生活していたが、妻に先立たれた男。

結局みな独り者となり、その後の生活に希望はない。広岡が青春時代を思いだし3人を呼び寄せなければ、のたれ死んでいてもおかしくない者たちばかりだ。つまりボクサーとしての一瞬の輝きの後、世界チャンピオンになれなかった者はどうなっていくのか。非常に厳しい現実が描かれている。

上巻では四人が共同生活を始めるまでが描かれている。様々な人の助けと、広岡の紳士的な態度。物語としてはどこかで危機やトラブルがあるものと思ったのだが…。何の問題もなく物語は進んでいく。昔の仲間に共同生活を呼びかけ、多少の反発やゴタゴタがあるかと思いきや、それもない。

物語にメリハリが利いていない印象をもった。広岡の規則正しい生活というのは読んでいて心地良い。他者に対する気の使い方もすばらしい。すべてが完璧に思えてしまうからこそ、なんだかもうちょっとトラブルがあってほしいと思ってしまった。

下巻では若いボクサーを育てる流れになるのだろう。



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