ハゲタカ外伝 スパイラル 真山仁


 2016.12.27      下町ロケット的雰囲気 【ハゲタカ外伝 スパイラル】

                     

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■ヒトコト感想
ハゲタカシリーズ番外編。いつもの鷲津ではなく、事業再生家の柴野が主人公となる本作。数々の企業を再生させてきた柴野が中小メーカーであるマジテックを救うために奔走する。中小の町工場が大きな景気の波に飲み込まれ沈んでいくのを必死で救いだそうとする柴野。鷲津は最後に少しだけ登場してくる。

町工場の後継者問題やリーマンショックにより景気後退など、小さな町工場が吹き飛んでしまうような、巨大な試練にどのようにして立ち向かうのか。まるで池井戸潤の「下町ロケット」のような展開だ。特許をどこが保有し、債権を元にマジテックを買い取ろうとする勢力。まさに小さな町工場が直面するにしては大きすぎる負のスパイラルだ。

■ストーリー
2007年9月、東大阪の中小メーカーマジテック創業者にして天才発明家の藤村登喜男が急逝する。通称“博士”の彼こそ、芝野健夫に事業再生家として歩むきっかけを与えた恩人だった。芝野はマジテックを救うべく、大手電機メーカー・曙電機から転じて奮闘する。

しかし、後継者問題やクライアントからの締め付けなど、モノづくりニッポンを下支えする町工場に降りかかる難題と、自己の利益を優先する金融機関の論理に翻弄され、苦境の渦に飲み込まれていく。再生浮上のきっかけをつかんだと思った矢先、リーマンショックが発生。想定外の余波に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。捨て身の最終戦を前に、鷲津をも巻き込んで、芝野は決死の反撃を決断する――。

■感想
大阪の町工場に天才がいた。通称”博士”と呼ばれた天才が急逝し、マジテックは危機に直面する。企業再生を生業としてきた柴野がマジテックを救う物語だ。大手電機メーカー曙電気で辣腕をふるっていた柴野が、大阪の小さな町工場へ転職する。

会社の規模や扱う事業には歴然とした差があるが、それでも柴野は恩人である博士のために、マジテック再生に奔走する。これはまさに池井戸潤の「下町ロケット」だ。博士が過去に発明した特許がポイントとなるなど、一部の内容もそっくりだ。

下町ロケットほどの爽快感はない。危機に関しても下町ロケットほどのムカつく敵や、手も足も出ない八方ふさがりな状況ではない。マジテックに迫りくる魔の手に、最初は気づかずに柴野は会社の業績をUPさせることだけを考える。町工場は景気の影響を大きく受けやすい。

取引相手に生産の増強を依頼され、工場の機器を増設したとしても、突如として取引延期が通知される場合もある。また、ハゲタカファンドから狙われたりもする。ハゲタカシリーズとして、マジテックに隠れた価値があるという部分がポイントだろう。

マジテックを建て直すために行った投資の債権を何者かに買い集められ、その結果、ハゲタカファンドにマジテックが買収される危機に直面するのだが…。池井戸潤作品のように、胸のすくような一発逆転があるわけではない。それまで、しいたげられた怒りが最後に爆発するというのもない。

淡々と、仕組みとして作り上げられ、法律的にはまったく問題のない買収工作。強烈なインパクトはないのだが、ハゲタカシリーズとしてのエッセンスは詰まってる。逆に、シリーズを全く読んでいない人には、面白さは伝わらないかもしれない。

ハゲタカシリーズのファンの人には外せない作品だ。



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