2016.6.15 深読みしてしまう女性同士の会話 【元気でいてよ、R2-D2】
元気でいてよ、R2-D2。 [ 北村薫 ]
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■ヒトコト感想
女性が主人公の短編集。女同士の会話の中に、ひそかに入り込んでいる皮肉や恐怖や怒りを感じるとることができるか。何気ない会話の中に潜む恐ろしさ。短編の雰囲気をつかみとらなければ、何が言いたいのか気づかない可能性がある。女同士の会話の中には、何重にもオブラートに包んだような言葉がある。ただ、その真意にお互いに気づいている。
鈍感な男は、女性の心理に疎い。必然的に何が言いたいのかよくわからない短編もあった。表題作や「腹中の恐怖」などはものすごくわかりやすい。「さりさりさり」なんてのは、ひそかに女の恐怖を感じることはできるが、深読みしなければならない。のんびりとした平和な中に、ひっそりと潜む恐怖というところか。
■ストーリー
気心のしれた女同士で飲むお酒は、自分を少し素直にしてくれる…そんな中、思い出すのは、取り返しのつかない色んなこと(「元気でいてよ、R2‐D2。」)。産休中の女性編集者の下に突然舞い込んだ、ある大物作家の原稿。彼女は育児に追われながらも、自ら本作りに乗り出すが…(「スイッチ」)。本人ですら気付かない本心がふと顔を出すとき、世界は崩れ出す。人の本質を巧みに描く、書き下ろしを含む9つの物語。
■感想
「腹中の恐怖」は非常にわかりやすい恐怖だ。亡くなった息子の手紙を母親が女に送り届けてきた。妊娠中の女はその手紙を受けとり…。一種のストーカーの極端なパターンだ。男が死んでいることと、その手紙が生々しい内容であり、さらには妊婦に対しては衝撃的な内容というところが強烈だ。
まったく根拠のないことだとしても、死んだ男からの言葉は恐ろしい。身の毛もよだつような内容であることは間違いない。作者の前書きにあるように、妊婦は読まない方がよいのだろう。
表題作である「元気でいてよ、R2-D2」は、さみしさがこみあげてくる。女性同士の会話の中で、とり返しのつかないことについての話題となる。スターウォーズのR2-D2に似たコーヒーメーカーを見ながら、過去を回想する。後味は良くはない。
女性の恐ろしさというか、言葉の端々に見え隠れする恐怖がある。男同士の話ではこうはならないだろう。もっと即物的というか、さっぱりとした感覚になることは間違いない。女性のねっとりとした感覚を感じずにはいられない作品だ。
「さりさりさり」は、姉夫婦の部屋に泊めてもらった妹の物語だ。ひょんなことから義兄と外出することになる。姉との会話の中で、昔話が登場し、分をわきまえない蛇の話がでてくる。話の流れからは、妹に対して分をわきまえろ、と言っているようだ。
妹からすると特別な感情など何もなく、ただ義兄と外出しただけなのだが…。姉と妹の会話の中で、姉が何かはっきりと告げるのではなく、遠回しに妹にジャブを打つような言葉を伝えるのが恐ろしい。身内であっても女同士の恐ろしさは変わらないのだろう。
どれもが女性ならではの恐怖感だ。
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