2015.9.3 作者の体験談か?虚構か? 【EPITAPH東京】
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■ヒトコト感想
戯曲「エピタフ東京」を書く筆者。一瞬、作者の経験談が描かれているような気分になる。現実の東京を舞台に、現実に起こった出来事が登場するため、変なリアル感がある。謎の男・吉屋の登場により一気に虚構の雰囲気は強くなる。が、たまに登場してくるエッセイ風な語り口は、作者の実体験なのでは?と錯覚させる効果がある。
東日本大震災や将門の首塚、東京の名所の数々が描かれると、どうにも混乱してしまう。これは虚構の物語なのか、それとも作者の体験を元にして描かれたものなのか。戯曲については正直よくわからない。なかなかに高いハードルの作品となっている。筆者の日常。吉屋の日常。そして戯曲。混乱する可能性が高い。
■ストーリー
東日本大震災を経て、東京五輪へ。少しずつ変貌していく「東京」―。その東京を舞台にした戯曲「エピタフ東京」を書きあぐねている“筆者”は、ある日、自らを吸血鬼だと名乗る謎の人物・吉屋と出会う。吉屋は、筆者に「東京の秘密を探るためのポイントは、死者です」と囁きかけるのだが…。
将門の首塚、天皇陵…東京の死者の痕跡をたどる筆者の日常が描かれる「piece」。徐々に完成に向かう戯曲の内容が明かされる作中作「エピタフ東京」。吉屋の視点から語られる「drawing」。三つの物語がたどり着く、その先にあるものとは―。
■感想
読んですぐに、これは作者のエッセイ集か?と思ってしまった。しばらく読みすすめ、吉屋が登場してくると虚構の物語と気づくことになる。筆者が友達のB子と東京を動き回る。その雰囲気はまさに作者が描くエッセイに似ている。
もしかしたら作者の実体験が多分に反映されているのかもしれないが、ところどころに非日常が入り込んでいる。本作を普通のエッセイとして片づけることは難しい。吉屋の口にする言葉が、どこかオカルトチックであり、吉屋の存在自体が、この物語が虚構だということを表しているようだ。
筆者が描く「エピタフ東京」。まずこれがかなり難解で意味がわからない。戯曲に精通した人ならば楽しめるのだろうか。自分の中ではなんだかよくわからない物語、という印象しかない。戯曲を完成させるために、筆者がとる行動もよくわからない。
筆者=作者という図式でどうしても読んでしまうので、作者の他エッセイとのイメージの違いに驚いてしまう。ミステリー的な要素もあるのかと思ったが、あまり印象にない。本作のジャンルは何か?と聞かれたら答えに困ることは間違いないだろう。
吉屋の物語はさておき、筆者の物語だけ読んでいると、まるっきりエッセイ集だ。それが戯曲へと繋がり、吉屋の奇妙な行動へと続くとよくわからない印象になる。東京を舞台にしているので、出てくる地名や名所はなじみ深い。
ただ、それだけというのはある。最後まで読み終わったとしても、終わったという感覚しかない。知らない人に説明するのが非常に難しい作品であり、作者のファン以外が読むのはかなり辛い作品であることは間違いない。
ひとことで言い表すのが難しい作品だ。
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