ダブル・トラップ 大沢在昌


 2015.1.10      松宮貿易という秘密組織 【ダブル・トラップ】

                     

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■ヒトコト感想

元政府の秘密情報機関の諜報員で、今は平穏なレストラン経営者として過ごしていたが、過去の因縁から事件に巻き込まれることになる。秘密情報機関が松宮貿易という名前であることが特殊であり、隠語満載の物語だ。過去の事件でスパイ容疑をかけられたため、機関を脱出した加賀の元に、同じく機関から逃げ出した牧野から助けの電話がかかる。

秘密機関、謎のテロ、そして松宮貿易の汚染。組織内にスパイがいることを汚染という。汚染源を特定することが難しいため、加賀たちが事件に巻き込まれることになる。裏切りの連続と、その巨大さと全容が見えない松宮貿易。政府直属の情報機関の特殊さと、圧倒的なキャラの個性により差別化された作品だ。

■ストーリー

元政府機関の腕利き謀報員だった加賀哲は、“裏切り者”として組織を追われ、ある都市で高級レストラン・クラブの経営者に納っていた。そんな加賀の許に、奇妙なテープが送られてきた。「頼む、助けてくれ」その声は、ある事件で罠に落ち、共に組織を追われた同僚牧野辰男であった。牧野の身に何が起きたのか?牧野が住む四国宇和島に向った加賀の胸に、捨てたはずの過去が甦ってくる…。

■感想
松宮貿易が関わる事件は特殊だ。何者かがテロ組織に対して武器を輸出している。その新組織は日本のどこかにある。CIA関係者が殺され、その関係者と繋がりがあった者たちが殺されていく。巨大商社やCIA、果ては日本政府のフィクサーまで、どこまで複雑な関係性があるのか物語の全容は見えてこない。

商社の幹部がひそかにすすめていたテロ組織と政府の両方を支援するWプラン。非人道的な計画であることは間違いなく、その計画は中止されたはずだが、何者かがプランを盗み出し実行しようとする。

加賀が調べる先で、次々と人が死んでいく。加賀のキャラはステレオタイプなハードボイルドの男だ。銃の腕が立ち、渋い魅力のある中年の男。事件の鍵を握る女からは、好意をもたれる。いつものパターンといえばそれまでだが、事件の複雑さが雰囲気を変えている。

特に、松宮貿易の関係者はすさまじい個性がある。若者にしても、国の諜報機関に所属するという強烈な使命感に突き動かされている。さらには、すべてを牛耳る松宮の存在。その正体が不明であるだけに、恐ろしさは強調されることになる。

松宮貿易の汚染源はラスト間近で明らかとなる。過去の事件から現在まで、スパイの存在に気づいていながら通常業務を続けてきた松宮貿易。ここまでくると、作中のどの記述が仕組まれたもので、どれが真実なのかほとんど意味はなさない。

あまりに壮大な計画により、加賀と牧野が抜け出した直後から、結末を想定しての仕組みが作られていた。諜報組織の信じられないような気の長さというか、使命に対して執念深い追及はすさまじい。虚構の物語と知りながらも、恐ろしさを拭い去ることはできない。

政府お抱えの諜報機関は、ひとつでは物足りないということだ。



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