ダブル・フォールト 真保裕一


 2015.7.1      弁護のため、被害者の悪評を探る 【ダブル・フォールト】

                     
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■ヒトコト感想

新米弁護士が奔走する物語。殺人を犯した依頼人を弁護する本條が、正当防衛を勝ち取るために、被害者の触れられたくない過去を探る。刑事事件の裁判で、依頼人の利益となるためには、たとえ殺人事件の被害者といえども、身辺を探られ悪事を暴かれてしまう。客観的に考えると、被害者家族が憤るのも当然のことだ。

殺された人物の悪事を暴こうとすることに、正当な理由があるのか。死者に鞭撃つような行為が許されるのは弁護士だけ。それら被害者家族のやりきれない思いをアピールした作品だろう。ただ、事件として特別ミステリアスではなく、大きな謎もないのでサラリと終わる印象だ。新米弁護士の本條が、理想に燃えるが打ちのめされるという物語だ。

■ストーリー

28歳の新米弁護士・本條務は、事務所の代表弁護士・高階徹也から、初めて殺人事件の弁護を任される。被告人は、町工場を経営する戸三田宗介。金融業者の成瀬隆二をペーパーナイフで刺殺してしまったのだ。

被告人の減刑を勝ち取ろうと、本條と高階は成瀬の悪評を集め、法廷で次々と暴き出す。ところが―「何で被害者がこんなひどい目にあわされるの。裁かれるのは父さんじゃない。犯人でしょ!」被害者の娘・香菜が叫んだ。そして、隠されていた真相が姿を見せ始める…。

■感想
新米弁護士の本條がボス弁護士の高階から殺人事件の弁護を任される。被告人の正当性をアピールするために、被害者である成瀬の悪評を集めようとする。弁護士として依頼人の利益を考えると、被害者の悪評を集めるのは当然のことだろう。

ただ、刑事事件として明確な殺人という証拠がある中で、被害者の身辺がどこまで探られることになるのか。普通に殺人事件として裁かれる場合、被害者は被害者として憐れみを受けるだけかと思いきやそうではない。この意外な部分は、ほとんどの人が見落としている部分かもしれない。

弁護を進める中で、人の暗部を探らなければならないのは弁護士の宿命だ。それによって傷つく人がでてくるのはしょうがないことなのだろう。法廷で、家族も知らなかった真実を暴露される。被害者でありながら、さらに辛い思いをする。

作者の描きたかったことはこの部分なのだろう。弁護士の活動としては、ドラマチックであったりミステリアスであるわけではない。事件についても、とりたてて特殊な部分はない。そのため、先が気になるような作品ではないが、人が見逃す部分に脚光を当てている作品だ。

ラストでは、隠された真実が明らかとなる。ただ、ごく普通の殺人事件の弁護ということで、大どんでん返しがあるわけではない。被害者家族の苦しみに焦点を当て、それに反発するキャラクターが存在する。弁護士の多岐にわたる仕事内容と、実は誰から恨まれるかわからない危険な仕事ということもある。

強烈なインパクトはないのだが、弁護士の仕事としての神髄が見えてくるような気がした。映画的に弱きを助け強きを挫くヒーロー弁護士はマレで、本作のような泥臭い弁護士がほとんどなのだろう。

事件は平凡だが、弁護士の仕事の神髄が描かれている。



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