奴隷小説 桐野夏生


 2015.7.15      さまざまな奴隷状態を描く 【奴隷小説】

                     
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■ヒトコト感想

様々な奴隷状態が描かれている本作。シチュエーションが特殊であり、普通ではない。ただ、何かしら抑圧された状況や不自由な状況から脱出するために努力する者と、状況に流される者が存在する。作者の作品独特の雰囲気はある。奴隷の状況に、どこかエロティックな雰囲気を感じさせる流れもある。

単純に監禁や不自由な生活を強いられるという意味での奴隷と、目標を達成するために、そのことだけに心血を注ぐのもある意味奴隷状態かもしれない。明らかにわかりやすい奴隷状態は読んでいて理解しやすい。人を肉体的にしばるのではなく、精神的にしばる奴隷というのが、現代社会には存在するのだろう。見方を変えれば、人は何かしらの奴隷になっているということだ。

■ストーリー

突然原理主義者らしき兵士に襲われ、泥に囲まれた島に囚われてしまった女子高生たち(「泥」)。村の長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう。それがこの村の掟。そしてあらたな結婚の相手として、ある少女が選ばれた(「雀」)。アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿とは?(「神様男」)。

管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事せざるを得ない。そして時には動物を殺すより躊躇なく殺される。死と隣り合わせの鐘突き番にさせられた少年の運命は?(「山羊の目は空を青く映すか」)。時代や場所にかかわらず、人間社会に時折現出する、さまざまな抑圧と奴隷状態。それは「かつて」の「遠い場所」ではなく、「いま」「ここ」で起きてもなんら不思議ではない。本作を読むことも、もしかすると囚われのひとつなのかも――。

■感想
印象的なのは「泥」だ。囚われの女子高生たちが泥を越えることができれば、逃げ出すことができる。処女で美しい女子高生だけは、男の嫁になれるが、それ以外は下女となる。泥に囲まれた生活の中で、奴隷生活から抜け出す方法はあるのか。

奴隷生活から逃げ出さないまでも、女同士の駆け引きや、あさましい足の引っ張り合いというのは、強烈なインパクトがある。一度逃げ出そうとして泥に入ると、体や服についた泥は取り去ることができない。何かを象徴するかのような泥だ。

「雀」も印象深い。舌切り雀をモチーフとした作品なのだろう。村の長老との結婚を拒否すると、舌を切られ「雀」として生活することになる。自分の誇りを守るのため、雀として生きるのか、それとも長い物には巻かれ、長老と結婚するのか。

美しい女が時の権力者から言い寄られ、それを拒否したことによる攻撃というのは定番かもしれない。「雀」から生まれた美しい女は「雀」として生活することを強いられ、そこから抜け出すには権力者にすり寄るしかない。奴隷=女性という図式はここでも変わらない。

「ただセックスがしたいだけ」は主人公が男となり、一年のうちに川が凍るときだけやってくる女の虜になるという短編だ。男女それぞれ奴隷としてわかりやすい図式の方が読む方も楽だ。精神的な奴隷や、現代の奴隷状態というのは、ニュアンスはわかるのだが、気持ちが入り込めない。

女のために死の危険を冒しながら盗みを働くのは、男の悲しい性なのだろう。ある意味、女の奴隷であり、もしかしたらこれこそが現代の結婚制度に近いのかもしれない。

作者の作品独特の奴隷感というのがよくでている。



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