抱く女 桐野夏生


 2015.10.30      昭和の時代に誰とでも寝る女 【抱く女】

                     
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■ヒトコト感想

作者の実体験に基づいているのか、学生運動が活発な時期の大学生女子が主人公の本作。麻雀、酒、男、学生運動という時代を感じさせる描写が多々ある。本作の主人公である直子は、特定の彼氏がいるわけではなく、仲の良い男友達と簡単に寝てしまう。兄が学生運動にあけくれ、セクトの対立に巻き込まれ襲撃される。

昭和の女子大生がすべてこうだとは思わないが、現代であってもかなり特殊な女子大生だ。直子の心理描写を読んでいると非常に悲しくなってくる。男からは軽く見られ、本当に愛する相手をなかなか見つけることができない。連合赤軍事件が起きた時代の学生たちは、どこか刹那的で目的が何なのかわからない状態に陥っているのだろうか。今では考えられないような状況がここにある。

■ストーリー

「抱かれる女から抱く女へ」とスローガンが叫ばれ、連合赤軍事件が起き、不穏な風が吹き荒れる七〇年代。二十歳の女子大生・直子は、社会に傷つき反発しながらも、ウーマンリブや学生運動には違和感を覚えていた。必死に自分の居場所を求める彼女は、やがて初めての恋愛に狂おしくのめり込んでいく―。

■感想
時代的な印象がものすごく強い作品だ。麻雀に積極的に参加する女子大生。ジャズ喫茶に入りびたり、酒を飲み、男友達のもとを渡り歩く女・直子。男たちとのフランクな関係や、男友達と気軽に寝る性格は、男目線からすると都合の良い女ということだ。

そんな直子の生活で、直子自身のことが語られている。一瞬、時代的にも作者の実体験が含まれているのか?と思わずにはいられない。学生運動に傾倒していく兄を持ち、その兄が不幸な結末を迎える。時代に流された結果の不幸とも言えるだろう。

直子の日常は、当然ながら普通ではない。学校にほとんど行くことはなく、遊び歩く女子大生。女性同士であっても、どこか相手をさぐるような考え方を続けている。ものすごく刹那的に生きているように感じられてならない。

直子のその日が良ければ良いというような生き方は、虚構の世界として読むと楽しめる。だが、感情移入はできない。着の身着のまま、知り合いの家にもぐりこみ、そのまま知り合った男の家に居座る。学校を辞めて働くように男に言われるとそれを真に受けてしまう。あまりに後先考えない行動の数々に、不安になってしまう。

直子と兄と両親の関係は非常に微妙だ。学生運動にあけくれ、最終的にリンチに合い植物状態になる兄。両親からすると、身勝手な直子だけでなく、子供たちが不幸の渦に巻き込まれていくのをただただ見守るしかないのは辛い状況だろう。

時代だからという言葉では理解できない雰囲気があふれている。現代では学生運動も形を変えてどこかで存在しているのかもしれないが…。直子が何を目的として生きているのかがよくわからない。純粋に愛する男を手に入れたい、というのともまた違うような気がした。

直子の成長した姿が今の作者だとしたら、それこそ衝撃的な行く末だ。



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