キャプテンサンダーボルト 伊坂幸太郎


 2015.8.25      スマホで翻訳する恐怖の破壊者 【キャプテンサンダーボルト】

                     
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■ヒトコト感想

小粋な会話と信じられないような出来事が発生する物語。雰囲気的には「ゴールデンスランバー」に近い。小学生のころ同級生だった相場と井ノ原が奇妙な事件に巻き込まれる。スマホの翻訳機能で会話をする謎の外国人に追われる二人。村上病というなぞの伝染病や、戦争中に蔵王に墜落したB29、そして公開中止となった幻の映画。

謎が小出しにされ、何がなんだかわからないまま物語に引き込まれていく。相場が怪しげな組織のスマホと水を奪い取ったことから始まる本作。いつもの伊坂幸太郎が描くキャラと同様に、どれだけピンチに陥ろうとも飄々とした語り口は健在だ。キャラクターに深刻さがないために、シリアスな物語も、どこかユーモラスに感じてしまう。

■ストーリー

小学生のとき、同じ野球チームだった二人の男。二十代後半で再会し、一攫千金のチャンスにめぐり合った彼らは、それぞれの人生を賭けて、世界を揺るがす危険な謎に迫っていく。東京大空襲の夜、東北の蔵王に墜落したB29と、公開中止になった幻の映画。そして、迫りくる冷酷非情な破壊者。すべての謎に答えが出たとき、動き始めたものとは――

■感想
小学校の同級生である相場と井ノ原。ふたりは同じ野球チームだったため、何かと野球用語が登場してくる。冷酷な破壊者に追われても、野球のサインプレーでなんとかその場を切り抜けてしまう。秘密がわからないまま、相手が欲しがるからスマホを持って逃げたり、相手が嫌がるからペットボトルから水を捨てたり。

相場の行動は場当たり的だ。対してコピー機の保守者である井ノ原は、相場と同様に金に困ってはいるが、コピー機を使った怪しげな調査を副業としている。二人のキャラが割と対照的なのが面白い。

ふたりを追いかける謎の破壊者はすさまじい。常にスマホの翻訳機能で会話をする。不自然で無機質な会話内容が、より破壊者の不気味さを増大させている。目的のものを手に入れるためには手段を選ばず、場所も気にしない。

映画館で暴れたかと思うと、日本刀を持ち感情を露わにすることなく、相手の首を切り落としてしまう。まさにターミネーター的追跡者だが、ふたりに迫る際には、なぜかスマホの翻訳機能を通すとやけに紳士的に思えてしまう。このギャップがより恐ろしくなる。

一攫千金を手に入れるため、相場と井ノ原は行動する。その過程でキャプテンサンダーボルトの意味が判明する。公開中止となった幻の映画はすべて仕組まれたことだった。謎の伝染病である村上病の説明もされている。世界規模でのテロや、日本政府の村上病の仕組みなど非常に練り込まれている。

現実世界でも、架空の病原菌をでっちあげ、そのワクチンを日本全国の子供たちへ打つというのはありえるのかもしれない。荒唐無稽ではあるが、得体の知れない巨大な組織の暗躍をにおわすこの手の作品にはついのめり込んでしまう。

登場キャラクターの飄々とした態度が、物語のトーンを決めている。



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