2011.2.17 希望を捨てない精神力 【ゴールデンスランバー】
評価:3
伊坂幸太郎ランキング
■ヒトコト感想
JFK暗殺を彷彿とさせ、えたいの知れない巨大な力の暗躍をにおわす流れ。この雰囲気はモダンタイムスに近いが、しっかりとした結末が描かれているだけに後味が良い。逃げ回る青柳と、追いかける警察。そして青柳を助けようとする人々。圧倒的に不利な状況でありながら、希望を捨てないその精神力に圧倒されてしまう。逃げ場のない状況に陥ったとき、諦めの気持ちがいっさい見えてこない。作者のキャラクターにありがちな、どこか悟りを開いたような考え方が、本作から悲壮感をなくしている。さらには、未来や仲間に対しての希望がにじみ出ている。特にラストの展開はすばらしい。どういうオチにするかによって、大きく評価が分かれると思うが、この結末はすばらしい。明るく楽しい気持ちになれる終わり方だ。
■ストーリー
仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。
■感想
巨大な力の陰謀によって追い込まれる主人公。どこかモダンタイムスに近いが、結末がマンガ的な終わり方であったモダンタイムスに比べて、本作はしっかりとした流れができている。読み終わった後に、多少ご都合主義的に感じるが、それを凌駕するパワーがある。一つの困難を乗り越えたかと思うと、別のピンチがやってくる。青柳にとって救世主となる人物が現れたかと思うと、最後まで助けてはくれない。八方ふさがりな状況の中で、希望を捨てない青柳の精神力がすばらしい。自暴自棄になるキャラクターではなく、根拠のない自信のようなものすら感じてしまう。
最悪な状況になり、青柳に感情移入したとき、とっさに「これは無理だろう」と思った。マンガ的な結末か、バッドエンドのどちらかしかないような気がした。それが、しっかりとした結末が描かれているので驚いた。作者のキャラ独特の小粋な会話と、場にそぐわない緊張感のかけらもない言葉。それが逆に緊迫感を高め、どうしようもない状態を表しているのかもしれない。とんでもない状況に追い込まれながら、青柳からは激しい怒りや、気が狂わんばかりの悲しみというのは感じない。それは感情がないわけではなく、ひどく冷静な判断と、悟りの境地のようにも感じられた。
ラストがすばらしい。JFK暗殺的な終わらせ方しかないと思っていたが、これほど前向きで明るい気持ちになれるとは思わなかった。思わず読みながらニヤニヤと口元が緩んでしまった。国家規模といえるほど巨大な組織から狙われた者の末路はどうなるのか。世話になった人々へ、自分の現状を伝えるような青柳の行動には、楽しくなった。抗いようのない力に押さえつけられながらも、人は対抗できる。小説作品をそのまま真に受けることはないが、勇気がわき明日への活力がみなぎってくる。
いつものキャラクターだが、魂がこもっているような気がした。
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