ブラック オア ホワイト 浅田次郎


 2015.8.16      人生の3分の1を過ごす夢 【ブラック オア ホワイト】

                     
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■ヒトコト感想

夢を見なければ、人生の3分の1は空白となる。白い枕と黒い枕により、良い夢と悪夢を見ることになる男・都築。都築が語る奇妙な夢というのがメインの物語だ。夢の舞台はさまざま。現実世界とはかけ離れた過去の世界がメインとなる。夢に登場してくるのは、必ず都築の知り合いではあるが、立場は大きく変わる。現実世界では都築より上の立場の者が、夢の中では都築の部下となる。

三代続く商社マンの都築が夢を見ることによりどのように変化していくのか。バブル全盛の商社員の実情などが、夢とからめながら描かれている。とりわけ、作者が得意な中国関連の話は印象深い。夢から歴史や自分のルーツをたどり、そこから現実世界での教訓を得る物語なのだろう。

■ストーリー

夢を見なければ人生の三分の一は空白だ。それは罪だと思わないか。「近ごろ、よく眠れるかい」久しぶりに再会した都築君はそう言って語り始めた。三代続くエリート商社マンだった彼の輝かしい人生を暗転させた美しい悪夢の数々、そしてその果てに見たこの国の本性を――。バブル全盛期、経済の最前線に立った一人の男の「夢」を通して近代日本の実像を描き出す、野心に満ちた長篇現代小説。

■感想
商社マンの輝かしい人生が描かれているかと思いきや、夢により現実の人生が大きく変わっていくという物語だ。最初は単純に高級ホテルで白い枕と黒い枕を選ぶことができ、そこで白い枕を選ぶと美女と良い関係となる夢を見る。それに味をしめて黒い枕で寝ると…。

白と黒の枕がポイントとなる夢の話がメインの物語かというとそうではない。商社マンの都築が、夢に翻弄されつつも、現実世界でなんとか成功しようとやっきになるが、最後には人生の大半を過ごす夢に没頭していくという話だ。

商社マンとして、社会で生き残る上での闘いは非常に興味深い。インドで簡単だが手柄のでかい仕事を任されたはずが、最後の最後で同僚に出し抜かれたり、中国で腹心として面倒をみてきた現地採用の男が、国家のスパイであり、商社のノウハウを全て奪われたり。

商社マンとしての特殊な状況が物語として興味深く描かれている。都築の商社マンとしての人生は、山あり谷ありとなっている。企業人としてどん底に落ちたかと思えば、頂上間近までのぼりつめることができそうになる。このメリハリが面白い。

夢は都築を様々な立場として登場させる。そして、周りの人物たちはみな現実世界で都築と関わりのある者たちばかりだ。夢の世界の特権として、商社の取締役や部長たちが、都築の部下となる。そして、不可思議な出来事が起こる。

夢が現実を暗示しているような流れとなっているかと思いきや、多少ミステリー的でもある。商社マンとしての成功を求め続けることはなく、人生の3分の1をすごす夢を大事にしようとする。夢が現実世界にどれだけ影響を与えるのかわからないが、夢のなんでもありな感じが良い。

非常に奇妙な印象を残す作品だ。



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