馬車は走る 沢木耕太郎


 2016.1.21      対象者とのすばらしい関係性 【馬車は走る】

                     
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■ヒトコト感想

人物ノンフィクション。その人物に対してどれだけ思い入れがあるかによって、作品への熱中度も変わってくるだろう。自分に限ると、石原慎太郎はよく知っている。が、本作で描かれているのは、40代の時に挑戦した東京都知事の選挙についてだ。今の石原慎太郎とは想像できないような状況にあったのだということがよくわかる。

そのほかには、小椋佳はハゲかかかったオジサンというイメージがあるのだが、銀行員とシンガーソングライターという二足のわらじを履いていることが詳細に描かれている。そして、三浦和義は…。子供ながらにニュースで終日騒がれていたことはよくわかっていた。内情としては、かなりいろいろなことがあったのだなぁ、というのがよくわかる。それらのすべての人々と、関係性を築くことができた作者のすごさを感じてしまう。

■ストーリー

趙治勲、石原慎太郎、山田泰吉、小椋佳、多田雄幸、三浦和義…。それぞれの人生を共に生きて描く人物ノンフィクション。

■感想
趙治勲のノンフィクションは、作者が知り合いということは、他の作品で登場していたのでなんとなくわかっていた。ただ、韓国から囲碁をやるために留学してきたということに驚いた。小さいながらも囲碁づけの日々を送り、多数のタイトルを持つまでに成長した男。ただ、韓国生まれということよりも、日本で育ったということで、韓国ではあまり歓迎されないことの悲しみが描かれていた。

タイトル戦を韓国でやるということで、それに同行する作者。本作でとりあげた人物すべてに言えることだが、対象人物と作者の信頼関係がしっかりと築かれているということだ。ここまでの関係性を作るのは相当な時間と労力がかかっているのだろう。

石原慎太郎のノンフィクションは、40代の慎太郎が東京都知事選挙にいどむ場面が描かれている。今の慎太郎からは想像できないような苦労が作品からにじみ出いていた。若手として年寄りを追い落とす立場。どれだけ必死に選挙活動をしたとしても、確実な勝利を得ることは難しい。ラスト間近の票読みから始まり、最終的な選挙速報での雰囲気。

負けが確定したときの、なんとも言えない閉そく感。その前に、若手議員の河野洋平と共に選挙カーに昇ることができれば勝てるという思惑。複雑な利害関係の中で、選挙に挑む人々。選挙戦の熱さが伝わる作品だ。

三浦和義は、子供ながらにニュースを騒がせていた男だというイメージがあった。何をしてなぜそこまでマスコミに追いかけまわされたのかよくわからなかった。それが本作を読むことで大枠は理解できた。ただ、逮捕直前まで作者が三浦和義と同じホテルの部屋でインタビューしていたということに驚いた。

部屋に入れるのはそれなりに信頼できるものだけ。作者は短時間のうちに三浦和義から信頼されたということだ。リアルタイムに逮捕されるかもしれないという男を、つぶさに観察した作品はすごい。何気ないしぐさに逮捕されるかも?という恐怖がにじみ出ているようだ。

対象人物のことをよく知っていれば、より楽しめるだろう。



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