バラカ 桐野夏生


 2016.10.10      日本の別の未来は悲惨だ 【バラカ】

                     

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■ヒトコト感想
子供の売買、震災、原発事故、放射能汚染など様々な要素がつまっている。が、なんとなくとってつけたような印象を受けた。何か共通したテーマがあるわけではなく、登場人物がそれぞれに不幸な目にあう。これでもかというくらい悲惨な目にあう人物もいる。ドバイで売られた子供「バラカ」を中心として義理の父親である川島の異常さや、牧師であるヨシザキの悲惨な最期。

そして、バラカを買った沙羅や優子なども不幸な人生を送っている。誰ひとり幸せにならない。バラカにしても放射能にやられ甲状腺を切り取っている。日本の別の未来という流れはあるが、かなり悲惨な未来だ。日本全体が不幸であり、不安に満ちた生活を送るしかない現実。今の方が全然マシだと思えてくる。

■ストーリー
子供欲しさにドバイの赤ん坊市場を訪れる日本人女性、酒と暴力に溺れる日系ブラジル人、絶大な人気を誇る破戒的牧師、フクシマの観光地化を目論む若者集団、悪魔的な権力を思うままにふるう謎の葬儀屋、そして放射能警戒区域での犬猫保護ボランティアに志願した老人が見つけた、「ばらか」としか言葉を発さない一人の少女……。人間達の欲望は増殖し、物語は加速する。そして日本は滅びに向かうのだろうか――。

■感想
ごく普通のOLが子供ほしさにドバイで「バラカ」を買う。ここまではちょっと歪なOLの生活と思えなくもない。川島という女に対して憎しみを持つ人物と結婚し、その後偶然にも宮城へ向かったため、そこで津波にのまれてしまう沙羅。突然震災が絡んでくる。

川島とバラカの生活のはずが、そこでも福島での奇妙な出来事でバラカはひとりはぐれてしまう。震災を詳細に描いているわけではない。メディア等で騒がれている内容をそのままつまみ食いしてエピソードにしました、というような印象を受けた。

バラカが成長し10歳となると、バラカを広告塔として利用する人物が現れ始める。放射能により甲状腺がんを発病し、甲状腺を取り除いたバラカ。このあたり、かなり唐突すぎる。いかにもわかりやすい展開だ。放射能に対して、老人たちは老い先が長いわけではないので気にしない。

偏見に満ちた世界の中で、ツイッターを使いSNSにより情報の収集をする。まさに流行ものをところどころに登場させたような感じだ。物語全体としてストーリーはすすんでいるのだが、メディアで目についたものを登場させずにはいられない雰囲気を感じた。

ひとりの少女をめぐる物語は、周りの人物が次々と悲惨な結末を迎えることで終わっている。特に川島はすさまじい。何がそれほどまでに川島をイラ立たせるのか。これほどまでに他者に悪意をふりまく人物が存在するのか。

ヨシザキにしても、不幸のサイクルから抜け出せと牧師らしいことを言ってはいるが、自身が両目をつぶされ、あげくの果てには飛び込み自殺をしてしまう。川島の他者に対する怒りは、作者の精神的な怒りのようなものを感じずにはいられない。

結局何が言いたいのかよくわからない作品だ。



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