雨に泣いてる 真山仁


 2016.10.27      大震災でのジャーナリストの気概 【雨に泣いてる】

                     

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■ヒトコト感想
東日本大震災でのベテラン記者・大嶽の物語。阪神大震災を経験した大嶽が、東日本大震災で目にした光景に衝撃を受けながら、ジャーナリストとしての使命を果たそうとする。取材中には、社主の孫である松本を探すという余計な仕事を押し付けられ、なおかつ松本のお守りもしなければならない。松本が公私混同することに怒りを示す大嶽。

被災地で知り合いを探したい松本の気持ちもよくわかる。が、記者の使命は何かということを大嶽は説いている。何かと反発しあう大嶽と松本。そして、松本を助けて被災死した少林寺の住職と過去の放火殺人の関係など、後半からはミステリアスな状況が加速する。記者のスクープが抜くか抜かれるかの駆け引きもまた面白い。

■ストーリー
3月11日、宮城県沖を震源地とする巨大地震が発生し、東北地方は壊滅的な打撃を受けた。毎朝新聞社会部記者の大嶽圭介は志願し現地取材に向かう。阪神・淡路大震災の際の“失敗”を克服するため、どうしても被災地に行きたかったのだ。

被災地に入った大嶽を待っていたのは、ベテラン記者もが言葉を失うほどの惨状と、取材中に被災し行方不明になった新人記者の松本真希子を捜索してほしいという特命だった。過酷な取材を敢行しながら松本を捜す大嶽は、津波で亡くなった地元で尊敬を集める僧侶の素性が、13年前に放火殺人で指名手配を受けている凶悪犯だと知る…。

■感想
新聞記者の物語は、大震災など通常ではない状況では、強烈な熱量を感じることができる。「クライマーズ・ハイ」もそうだが、非常事態であっても、スクープを抜くことを何より一番に考える。そして、松本が人道的な言葉をつぶやいたとしても、記者として何が必要かを説く。

大嶽の記者魂はすさまじい。まさに命を懸けて情報を伝えようとしているように思えてくる。他紙との関係においての絶妙な駆け引き。少林寺の住職を不確かな情報から疑ってよいのか苦悩する大嶽。ジャーナリストの気概を感じずにはいられない。

社主の孫だからと特別扱いされる松本。本人はそのことを嫌がるが、周りが勝手にお膳立てしてしまう。松本を東京に戻すために報道のヘリを使うとまで言い始める幹部たち。大嶽の怒りは、松本の生い立ちが影響していることは間違いない。

松本は自分の信念を貫こうとする。自分を助けてくれた少林寺の住職のプライベートを守るために、あえて記事を書かない。大嶽とは考え方が対極にあるような松本。ベテラン記者である大嶽の命令を松本は聞かなければならない。そこでの反発は、記者としてのイロハを説明されているような気分になる。

住職の正体は放火殺人犯なのか。住職が最後まで胸に抱いていた位牌から疑い始める者たちがいる。大嶽が不確かな情報からスクープをすっぱ抜くのか、それとも情報を確実にしてから記事を書くのか、そこに大きな分かれ目がある。

スクープを抜くことと、真実を明るみに出すこと。松本が言うようにその人物の人格を考え報道すべきなのか。綺麗ごとではなく、記者とは何のためにいるのかを問われている。特に被災地で被害を受けた人たちに取材をすることの意義が語られている。

記者を主人公とした物語には、強烈な熱量を感じてしまう。



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