アクアマリンの神殿 海堂尊


 2015.10.13      先進的すぎて、現在の価値観では計れない 【アクアマリンの神殿】

                     
海堂尊おすすめランキング


■ヒトコト感想

モルフェウスの領域」で凍眠した佐々木アツシの五年後を描いた作品。凍眠から目覚めたアツシの学校生活がメインに語られている。中盤まではアツシの境遇は特に語られることなく、学校生活を送りつつも、正体を隠すために苦悩するという部分が描かれている。それ以外に特殊なクラスメイトの存在やボクシング部絡みの話など、ごく普通の学生生活だ。

ただ、エピソードを水増しするために描かれているであろうボクシングの試合の流れは非常に違和感がある。いくら交流戦とはいえ、ボクシングで勝ち抜き戦なんてのがありえるのだろうか。明らかにアツシになんらかの花を持たせるための演出と気づいてしまう。

■ストーリー

桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。“凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。

彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆく一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。アツシが彼女のためにした「選択」とは

■感想
凍眠から目覚めた少年は、どのような選択をするのか。中盤までの学生生活はオマケなのだろう。凍眠中に睡眠学習を行い、普通の学生よりもはるかに進んだ知識を持つ少年。このあたりでもかなり無理やり感があるのだが、アツシのキャラクターが急に大人びているのもご都合主義のひとつだろう。

両目を失明する危機を、凍眠により治療方法が確立されるまで待つ。未来の医療として非常に希望をもたせる流れだが、結局のところ目覚めたあとの問題が一番大きいのだろう。

学生生活を過ごす中で、アツシはある選択に迫られる。自分を助けるために、同じく凍眠へと入った涼子をどうするのかだ。目覚めた時にそれまでの記憶を無くすのか、それとも引き継いだままにするのか。アツシの問題が解決されるかされないかが、そこに繋がっていく。

このあたりは、明らかに「モルフェウス~」を読んでいないと楽しめない。作者の作品では定番となっているが、必ず関連作品を読んでおくべきというのがある。読むのと読まないのでは、印象が大きく異なるのは確かだ。

凍眠での問題点が語られ、法律的な問題と人道的な問題がある。凍眠から目覚めた者は、必ずそれまでの記憶を消去すべき、という流れになれば問題ないはずが…。あまりに先進的な内容すぎて、現在の価値観では測れない部分がある。

もし、本作のように凍眠が実用化されるようなことがあれば、必ず問題になることだろう。クロ―ンの問題もそうだが、現在の技術が物語の世界に追い付いたとき、現実的な答えを出すことができるのだろうか…。

何十年後かに、現実でも同じような問題が起きていると本作が話題になりそうだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp