秋に墓標を 上 大沢在昌


 2016.12.15      趣味に生きる主人公がハードボイルドらしくない 【秋に墓標を 上】

                     

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■ヒトコト感想
作者の理想とするライフスタイルを主人公に経験させたような作品だ。千葉の海辺の別荘地で静かに暮らす松原が本作の主人公だ。マンガ原作者として仕事はほどほどに、一日の大半を釣りに費やす生活。釣った魚を自分で料理し自由気ままな生活を続ける。そんな松原の生活に突如入り込んできたのは美しい女・杏奈だった。

この杏奈のアメリカでの職業や、杏奈を追いかける勢力。そして、杏奈がしていた仕事の全容が明らかとなる。前半は自由な独身貴族を描き、後半はハードボイルドの要素が強くなる。ただ、主人公の松原が格闘術に優れていたり銃の扱いに長けているのか、そのあたりは上巻でははっきりしない。杏奈の元ボスである秋月がアメリカの殺し屋から狙われるあたりからハードボイルド色は強くなる。

■ストーリー
都会のしがらみから離れ、海辺の別荘地で愛犬と静かに暮らす松原龍。だが、一人の女との出会いが、その生活を激変させた。浜辺で出会ったその女・内村杏奈は、アメリカで急成長を遂げた日系企業ムーン・インダストリーの会長・秋月の元から逃げてきたという。杏奈に対し、とうに捨て去ったはずの恋愛感情がわき上がるのを覚えた龍は、彼女をかくまうことに決めるのだが…。

■感想
自由気ままで好きな時に釣りをして人生を楽しんでいる松原。そんな松原の元に杏奈という美しい女がやってきた。明らかにいわくありげな女であるため、松原は最初は警戒する。が、結局のところしばらく匿うような真似をする。

普通のハードボイルドと違うのは、ひとつ屋根の下で生活したとしても松原は杏奈に手を出さないということだ。一緒に釣りを楽しみ、杏奈のプロ級の料理を食べる。そんな楽しい生活も長くは続かない。杏奈の元勤務先のボス・秋月が杏奈を取り戻そうと躍起になる。

秋月が登場してからは、ハードボイルド色が強くなる。強引に杏奈を連れ去られた松原。そして、杏奈を取り戻そうと秋月を探すことになる。秋月を探す過程で、秋月がアメリカ人の殺し屋から狙われていることに気づく。このあたりから殺し屋が登場し、ハードボイルドの風味が強くなる。

ただ、松原自身がどのようなことができるのか見えてこない。何か特殊な力を持っているのか。殺し屋と相対することができるのか。また、秋月から杏奈をとりもどせるほど特殊な何かをもっているのか。上巻でははっきりと描かれてない。

上巻では、杏奈と秋月は消息不明となる。作中では殺し屋によってどうにかなったという流れなのだが…。恐らく二人は生きているだろ。なぜ秋月が殺し屋から狙われるのかや、警察が秋月と杏奈と思われる死体の正体を発表しないなど、きな臭い香が漂っている。

アメリカの殺し屋や巨大企業のボスである秋月と比べると、いかにも松原はインパクト不足だ。元傭兵だとかいう、強者のエピソードが下巻で登場してくるのだろうか。このままだと、松原は運の良さだけで杏奈を救出するしかないような気がしてならない。

作者の理想像を体現させた主人公なのだろう。



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