BT'63 下 池井戸潤


 2015.3.21      いつの間にか解決する問題の数々 【BT'63 下】

                     
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■ヒトコト感想

BT21にまつわるきな臭い事件の数々。上巻から引き続き、琢磨が父親である史郎の意識の中に入り込む。この部分については合理的な説明はない。精神的に不安定で、離婚し、元妻は借金に苦しむ。現代の琢磨は不幸のどん底かもしれない。自分の境遇を変えるために、父親の意識に入り込んだ理由を探ろうとする。

琢磨の意識からのアドバイスにより史郎が個人向け宅配を行い、その結果も下巻で描かれている。状況だけ考えると、何一つ良い方向へいく材料がない。BT21に関わる殺人事件。会社の評判は地に落ち、じり貧となる。現代の琢磨の、謎を解き明かそうとする積極的な行動のみが唯一の救いかもしれない。想像していたよりも希望のもてるラストだ。

■ストーリー

呪われたトラックBT21号の運転手四人が次々と殺され、史郎が精魂を注いだ新事業も立ち行かない。すべては闇の住人、成沢が仕掛けたことだった。愛する鏡子まで成沢の罠に陥り、史郎は苦悩の選択をする―。一方の琢磨は、現代に残っていたBT21号を手に入れる。

■感想
BT21の運転手が次々と殺され、個人向け宅配も雲行きが怪しくなる。愛する鏡子のことを暴力夫が見つけ出し、さらには鏡子の娘は体調を崩す。仕事もプライベートもすべてがどん底状態の史郎。現代の琢磨の状況をかんがみると、本作の親子はどちらもとんでもなく不幸な状況にいることになる。

では、この状況から脱出する手段はあるかというと…。結局のところ金ということになる。上巻では離婚した妻の借金を返すために、史郎の時代に行方不明になった金を探そうとする琢磨。このあたりは、かなり強引な展開だ。

BT21にまつわる不幸の連鎖は、凄惨な事件と共に終わりを告げる。そして、相馬運送も終わりを迎えることになる。現在の琢磨はすべて結果を知ってはいるが、その過程は知らない。そのため、琢磨が過程を知るための物語といっても過言ではない。

過去の出来事を探ろうと、琢磨が積極的に動き出す。とても精神的に不安定なようには見えない。この積極性で、過去の出来事の細部を補完するヒントを手に入れることができる。

全てが終わったあと、琢磨は史郎に関するある真実を知る。もしかしたらこれが言いたかったのだろうか。いつの間にか、現代の琢磨の問題については、すべてがあっさりと解決してしまっている。特別な何かをせずに終わっている。

史朗の時代にしても、成り行きに任せた結果ということだろう。おぞましい殺し屋との対決や、廃棄物処理場で死体を処理する状況など、恐怖を覚える描写はあるのだが、謎についてはそれほど特殊ではない。琢磨が史郎の意識に入り込むことの説明は一切ないのだが、そのあたりは気にするべきではないのだろう。

特殊なSFといった印象だ。



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