ウォームハート・コールドボディ 


 2014.10.27      決して死なない男 【ウォームハート・コールドボディ】  HOME

                     

評価:3

大沢在昌おすすめランキング

■ヒトコト感想

ひき逃げに合い、一度は死んだはずの長生太郎が新薬により生き返る。疲れを知らず、痛みを感じず、決して死なない男となった太郎が、困惑しながら事件に巻き込まれていく。食事をする必要はなく、眠る必要もない。ナイフで刺されても血がでることもなく、痛みも感じない。原理はよくわからないが、脳だけ生きていれば良いようだ。

太郎は死者を生き返らせる画期的な新薬をめぐる争いに巻き込まれることになる。強烈な暴力に対して無抵抗ながら相手に恐怖を与える太郎の体。死なない男は無敵のように感じるがそうではない。大事なものを失う恐怖はある。新薬の秘密と太郎の体をめぐる激しい争いの中で、死なない男はどのような行動をとるのか。死なないことの恐怖はあるということだ。

■ストーリー

ひき逃げに遭って病院に運ばれたオークラ製薬の青年営業マン長生太郎は、強烈な違和感に目を覚ます。自社の研究室で全身の血液を新開発の薬品に置き換えられ、痛みを感じない「生きている死体」として蘇ったのだった。新薬を開発した大学教授の失踪に危険を察したオークラ製薬は、太郎を東京に逃がす。平凡な毎日から一転、危険のただ中に放り出された太郎だったが、恋人の麻美を思う気持ちがさらなる危険に向かわせる…。

■感想
疲れず、眠らず、痛みも感じない。食事をとらなくとも活動ができる原理は不明だが、腐敗を抑える薬を定期的に体に入れることで永遠に活動できる体を手に入れた太郎。新薬を軍事利用しようとする組織や企業が太郎たちをほっとくはずがない。

太郎の平穏な死人生活は、すぐに壊されることになる。生活の必要がないにもかかわらず、真面目に働くのは太郎の性格なのだろう。無敵の体を手に入れながら、日々を平凡に過ごそうとする太郎の性格が、物語をどこか落ち着いたものにしている。

太郎の恋人の存在が物語の鍵となる。圧倒的な暴力で他者を制圧してきた男が、太郎と相対すると、固まって動くことができない。今までであればナイフひと突きですんだところが、太郎は決して倒れない。太郎対激しい暴力というのは、読んでいて爽快な気分になる。

太郎は相手を攻撃するわけではない。どれだけ傷つけられようとも、平気な顔をして相手に近寄る。まさに幽霊でも目にした気分なのだろう。死者となった太郎の無敵具合が、物語の最大のポイントなのだろう。

多種多様な組織に狙われることになる太郎。太郎の仲間は少ない。死なない男をめぐる争いは、驚きのオチとなる。ファンタジーあふれる流れとなるのだが、死なない男が将来的にどうなるのかがポイントなのだろう。突然変異的な太郎の存在が、許されるのか。

世間的に不老不死の薬が存在した場合、どのような混乱が起こるのか。ハードボイルド作家である作者が描いた物語なだけに、随所にハードボイルドの要素がある。謎の組織や企業の幹部たちは、男臭さ満点のキャラクターばかりだ。

たまにはこの手のファンタジーも良いかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp