2014.9.21      手足の指を切断しても 【凍】  HOME

                     

評価:3

沢木耕太郎おすすめランキング

■ヒトコト感想

ストイックな登山家、山野井泰史のノンフィクション。生い立ちから、妻、妙子に出会い、そしてヒマラヤの北壁へと挑戦し、死地を彷徨う。衝撃的な作品であることは間違いない。ストイックな登山家の真実がここにある。酸素ボンベを持たず、一人きりで山頂を目指すアルパイン・クライミングにのめり込み、最終的には凍傷で指を切断してなお、山への情熱を捨てきれない男。

泰史ひとりだけでは、なしえない、妻の妙子がいたからこその衝撃的物語だ。山に登ることだけに心血を注ぐ生活。これほどまで、ひとつのことに没頭できるのかという思いと、生死の境における人の精神力の強さに驚かされる。本作を読むと、人をそれほど熱狂させる登山に興味がわいてくる。

■ストーリー

最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった―。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。

■感想
強のクライマーはどのようにして作られたのか。幼いころから登山に熱中した泰史。数々の記録を打ち立て、日本のアルパイン・クライミングの第一人者となる。そんな泰史が妻の妙子と共に挑戦したヒマラヤの北壁登山でのすさまじい状況が描かれている。

まず、単純に雪山へ登るために必要な準備の大変さに驚いた。高地へ順応するために必要な作業の数々や、持ち物を極力減らすために、必要最低限の物しか持たない。そして、酸素ボンベは決して使わない。この徹底したストイックさにしびれてしまう。

吹雪に合い、足止めされたとしても頂上への気持ちは決して萎えることはない。高山病により飲み物さえ受けつけなくなった妙子と共に、ひたすら頂点を目指す描写はすさまじい。生きるか死ぬかの状況で、少しでも体を休めるために、氷壁に10センチほどの棚があると、そこでビバークする。

ほとんど食事をとらない状況で、何日も氷壁を上り続けるなんてのは、常人では想像できない過酷さだろう。何時間もかけて少しづつ前に進む。そして、頂上にたどり着いたとしても、そこから下山することが一番の問題となる。

強烈なのは、すべての指が凍傷になり、切断の危険に直面したとしても、あっさりと受け入れるその精神力だ。鼻や口までも凍傷でやられたとしても、ベースキャンプに戻るため、一歩一歩前に進む。人はどれだけ強いのかと驚かされてしまう。

そして、足と手の指を切断したとしても、まだ山への情熱を捨てきれない登山家のすさまじさに圧倒されてしまう。普通ならば、どこかのタイミングで絶望し、生きることを諦め、楽になろうとするだろう。山野井夫妻の強烈な生への執着が、本作からビシビシと伝わってきた。

なぜ山はここまで人を熱中させるのだろうか。本作を読むと、その魅力を感じたく思い、山に登りたくなってくる。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp