写楽 閉じた国の幻 下 


 2014.5.21     衝撃的な写楽の新説 【写楽 閉じた国の幻 下】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

上巻で提起された写楽の正体については、下巻であっさりと却下されている。その代わり、下巻ではより真実味があると思われる案が提示されている。結局のところ、本作は作者の「写楽の正体」に対する自説を表現したいがための作品だ。そのため、回転ドアに挟まれた事故の話は、ほとんど物語とは関係なくなっている。

写楽の正体を追い求める佐藤に協力する大学教授にしても、なんらかの秘密を抱えているように思えたが、深読みしすぎたようだ。本作を読む限り、写楽の正体は非常に説得力のある説に思えてくる。写楽の正体を探ることをミステリーとすれば、成立するかもしれないが…。上巻から読み続ければ、それなりに写楽に興味がわいてくるから不思議だ。

■ストーリー

謎の浮世絵師・写楽の正体を追う佐藤貞三は、ある仮説にたどり着く。それは、錯綜する「写楽探し」に終止符を打つものだった……。発見された日記。田沼意次の開放政策。喜多川歌麿の激怒。そして、「東洲斎写楽」という号に込められた本当の意味。すべての欠片が揃うとき、世界を、歴史を騙した「犯人」の真実が白日の下に晒される――。小説と現実が交錯する、究極のミステリ。

■感想
写楽の正体は誰なのか?上巻では葛飾北斎が写楽なのでは?という流れがあった。それを決定づけるのが下巻かと思いきや…。新説が登場し、それを決定づけるような証拠が次々と登場してくる。確かに新説は説得力がある。というか、作者が意図的にそのような流れにしているので、当然なのかもしれない。

なぜ、写楽という人物のうわさが一切文献に残っていないのか。写楽の描き方が短期間に変わる理由は?そして、あっという間に煙のように消え去ってしまったのは?これら不可解な現象をひも解いていけば、作者の説しか答えはないように思えてくる。

物語としてはドラマチックな展開になるよう、合間に江戸時代の物語が描かれている。写楽がどのようにして生み出されたのか。新説を補完するような形で物語が作り上げられている。もし、これが本当のことだとしたら、かなりリスクのあることのように思えてしまう。

そして、極めつけは海外の文献をひも解き、この仮説に一致する記述があるかを探す場面だ。正直、どのようなこじつけをされているのかわからない。が、物語としてはかなり盛り上がる部分だろう。写楽の正体と思われた人物が、その時期、日本にいたのかどうか。それにすべてがかかっている。

写楽の正体が確定的となると、物語はその時点で終わってしまう。回転ドアの件については、ほとんど触れられずに終わっている。写楽に興味があり、写楽の正体を自分なりに想像していた人にとっては、たまらない物語だろう。写楽に少しでも興味があれば、楽しめるのは間違いない。

逆に写楽や江戸時代の芸術について、まったく興味がない人にとっては苦痛かもしれない。上巻を読み、それなりに写楽に興味をもてたならば、下巻も読むべきだろう。自分の場合は、本作から写楽に興味をもちはじめたパターンだ。

本作を読み、写楽の絵を深く知りたいと思ってしまった。



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