2014.2.11 死神の人間臭さ 【死神の浮力】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
前作「死神の精度」では、死神である千葉のクールで無関心な感じが、人の死を扱う作品としては異質だった。本作でも千葉のクールで異質な部分は前作どおりだが、若干の人間臭さというのを持ち合わせている。娘を殺された夫婦が、犯人に復讐する物語なのだが、その過程で夫婦が逆に犯人に罠を仕掛けられる。
あのクールで無関心な千葉が夫婦を助けるのは意外だ。人間がどうなろうと知ったことではないはずの死神が、自転車を高速でこぎながら犯人を追いかける。やはりなんだかんだ言って勧善懲悪ものは良い。悪いことをした奴が、最後に罰をうける。夫婦の復讐にかける情熱と相対するようなクールな千葉のコンビが、これ以上ないくらいすばらしい。
■ストーリー
娘を殺された山野辺夫妻は、証拠不十分により一審で無罪判決を受けた本城崇が犯人だということを知っていた。人生をかけて娘の仇を討つ決心をした山野辺夫妻の前に、“死神の千葉”が登場する
■感想
本作のポイントは、間違いなく犯人の本城だろう。裁判で無罪になるだけでなく、夫婦に一生心に残る傷を負わせようとする。作中ではサイコパス扱いされているが、冷静沈着で計画的な犯行というのは、サイコパス的な異常さよりも、憎たらしい恐ろしさがある。
本城にも死神が近づき、あろうことか20年の寿命の延長が決まったとき、物語としてある結末を想像してしまった。このシリーズではよくあるパターンなのだが、あっさりとした死があり、目的半ばで悪が生き残るというのもある。なんだか最悪の結末を想像せずにはいられない流れだ。
山野辺夫妻が本城へ復讐するため私財をなげうって計画をたてる。千葉の無神経な行動から、計画を妨害されたりもするが、夫婦は復讐を諦めない。作者のキャラでは、どれほど怒りや恨みがあったとしても、それを直接的に表現するキャラではない。
言葉づかいのせいもあるのだろうが、どこか落ち着きはらった、理性的で真人間のように思えてしまう。言葉とは裏腹に、その行動は瞬間的な怒りで我を忘れた人の行動そのままなのが、ギャップがあって良いのだろう。
千葉がどのような感情ゆえか、夫婦の手助けをする。本城を憎いと思うことはありえないが、いつのまにか夫婦の本城への復讐をサポートする。千葉の人間離れした行動が、サイコパスである本城を驚かせるのが痛快であり、やはり悪がそれなりに報いをうけるというのは読んでいて心地良い。
千葉が死神としての役割を果たすのはまた別の話で、結末があっさりしているのも良い。ある意味、本城の結末というのは予想外であったが、死神たちの後日談が、なんとも現実離れして痛快だ。
前作よりも千葉と人間たちの、心のちぐはぐ感と一体感がない交ぜになっており、面白さが増幅されている。
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