死神の精度 伊坂幸太郎


2008.11.24  死にこだわらない作品 【死神の精度】

                     
■ヒトコト感想
死神が調査員となり対象者が死ぬべきかどうかを調査する。調査員とは名ばかりでその基準などは示されていない。クールで無機質、人間的感情をまったくもたない死神が対象者と会話する。その会話シーンが、人間界に精通していない死神の純粋な疑問や、哲学的な問いかけに戸惑う人間たち。そのやりとりがやけに面白い。複数の短編からなる本作。それぞれの短編は人の死を扱う関係上、しんみりするかと思いきや、やけにあっさりと物語が終わっている。感動を誘うような場面もかすかにはあるが、結末としての人間の生死がやけにぼやかされている。死神が語るように、本作にとっては人の死にたいした意味をもたないのだろう。死神の行動や思考がいちいち面白いので、読んでいて明るい気持ちになる。題材が深刻であっても、それは変わらない。それらはやはり作者の筆力なのだろう。

■ストーリー

「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。

■感想
テンポの良い展開と、センスのある会話。作者の本領発揮というところだろうか。死神が調査する人物は、立場的に何か問題を抱えていたり、日々の生活に疲れていたりする。最初の作品では、本人に生きる意志があるかないかが調査における重要な要因になっていたが、後半はまったくそんな雰囲気がなかった。対象者に同情することもなければ、何かアドバイスをするようなこともない。死神が淡々と出来事を描写し、感想を語る。その語り口が普通の人が考えることとは程遠いことであり、さらりと口にだすあたりが面白い。そして、それに対して反応する対象者も面白い。

死が間近にせまっていることに気づかない対象者もいる。客観的に見ると、この流れならば、死なせずに生き続けさせ、幸せな場面となるのかと思いきや、死神には温情などというものがほとんどない。ずいぶんあっさりとしていると感じるのは、しんみりしたかと思うと、最後に対象者が死ぬか死なないかを死神がはっきりと明言しない。おそらくそのまま”可”となり死ぬことになるのだろう。何か過ちに気づき改心する対象者。自分に起こった出来事に満足する対象者。将来に希望をもつ対象者。事件を引き起こす対象者。そららすべてに死神は冷酷である。この死神の決断をあまり重要視していないのは非常に違和感を感じたが新しいとも思えた。

本作は映画化されているようだ。いくつかの短編の中にはあっと驚くような仕掛けはなく、ある程度予想できることなのだが、しんみりと心に染み入る作品もある。かと思えば、やすいミステリーのように先が想像でき、なんだかやっつけ仕事のように感じる部分もある。短編集なので良い悪いがあるのは当然だろう。ただ、いくつかのエピソードを切り取ったとしても、映画として本作の魅力が表現できるかは微妙だ。死神の独特な雰囲気と、冷たいながらもなんでも素直に感想をのべるその口調から、冷酷さを感じない死神。死神の魅力をどれだけ感じることができるかが本作の面白さのポイントだろう。

死を扱う作品にしては、さらりとさわやかな終わり方のような気がする。



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