紙魚家崩壊-九つの謎- 


 2014.1.16   おとぎ話の新解釈 【紙魚家崩壊-九つの謎-】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

雑多な短編集。謎というくくりはあるが、謎の種類も様々だ。日常のささいな謎もあれば、ちょっとしたホラー風味の謎もある。冒頭の「溶けていく」は、仕事場でのストレスを家でのある作業により解消していた女の恐怖が描かれている。内にこもればこもるほど、精神的に病んでくる。謎というよりも、女の精神が壊れていく過程が恐ろしい。

かと思うと、「サイコロ、コロコロ」や「おにぎり、ぎりぎり」なんてのは、まさにどうでもよい謎だ。おにぎりを握った形から、誰が握ったかを連想し、ある結論にいたる。正解すればすばらしいが、はずれるとこの上なくはずかしい。日常の謎だけに、この微妙な面白さが表現できるのだろう。

■ストーリー

日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。

■感想
様々な短編が収録された本作。共通したテーマがあるわけではないので、ひとことで表現するのは難しい。ある短編はくだらない日常の謎にフォーカスを当て、ある謎は恐ろしいまでの出来事に謎をからめている。

誰もが知っているおとぎ話に謎をからめ、現代風にしてみたり、ブラックユーモア全開な、まるで阿刀田高のような作品もある。様々な印象を残す短編集なので、本作であればこれだというイメージはつきにくい。しいて上げるとしたら、最後の「新釈おとぎばなし」は印象的だ。

誰もが知る「カチカチ山」を、現代のミステリー小説に置き換えたらどうなるのか。昔の平均寿命から考えると、お婆さんは今でいう四十前の女性。お爺さんも同じくらいの年らしい。そして、タヌキは暴力的な太った中年男で、ウサギが三十前後の美しい女探偵という流れらしい。

なんだか無理やり感が強いが、それなりにぴったりと当てはまるからすごい。もうカチカチ山を読んでも、頭の中には現代風の映像しか思い浮かばないだろう。結末はおとぎ話ほどシンプルではなく、実はすべてはある人物の策略だったとなる。子供には聞かせられない話だ。

「俺の席」は、阿刀田高風だ。ある日、男はいつも乗る電車を、普段乗るよりもずいぶん前の駅で早い時間に乗ることになった。そこには、まるであらかじめ決まっているかのうように、同じ顔ぶれが座っていたのだが…。何も知らない男が席に座ると…。

現実にはありえないことだが、ニヤリとしてしまう。他人の指定席を奪い取った男は、家に帰ると自分の指定席が奪われていた。最後のオチがなんとも阿刀田高風だ。因果応報ではないが、ざまぁみろ、と思った瞬間、なんらかの報いがあるのだろうと想像できた。

様々な印象を残す短編なので、印象をひとつにまとめることはできない。



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